なれずし探し近江の旅08 10月7日 福井県若狭町鯖街道、小浜→熊川宿→今津

熊川の宿に入ると旅人はほっとしたに違いない


日本海のサバの交易を調べに、前回、若狭高浜から名田庄を経て和知、丹波に出る経路の旅をしている。今回は、滋賀県高島市今津と福井県小浜市を往復した。
少しずつでもいいので、京都周辺(滋賀県・京都府・兵庫県)のサバ(マサバ)の食文化を調べていきたいと思っている。
滋賀県の湖北地方・余呉・朽木などのサバは主に日本海から来ていた。滋賀県南部米原以南湖東にサバをもたらしたのは主に三重県太平洋側だ。
サバの来た道、経路だが、当たり前だけれどもっと、もっと多種多様な水産物の来た道でもある。
滋賀県は京都市内への中継地点なので、京都で消費されるサバも、主に日本海と三重県太平洋側から来ていたことになる。
「さばのなれずし」、「塩さば(塩蔵品)」は今でも滋賀県全域で手に入る。「さばのへしこ(糠漬け)」、「焼きさば」は滋賀県北部が主な消費地であるし、生産地でもある。この4つの加工品総てが揃うのは滋賀県北部だ。
こんなことからも滋賀県の食文化は、サバ抜きには考えられないことがわかる。

昔、京・滋賀に対しての日本海でのサバの代表的な供給地は若狭地方だった。
1950年代くらいまで日本海のサバは豊漁で、佐渡島、能登半島、若狭湾、隠岐が4大漁場であった。
三方(現福井県若狭町)、小浜(同小浜市)の高浜(同高浜町)に水揚げされた若狭湾のサバが滋賀県を経由して京に送られていた。
産地からは馬などを使った比較的規模の大きい交易もあっただろうが、食文化を考えるとき重要なのは量的には少ないものの歩行(丹波などでは自転車、汽車に乗って)による交易である。
マスコミでも、ときに単行本でも「鯖街道」が登場するが、みな内容が薄いというか、誤情報ばかりで困る。
さばの来た道は毛細血管のように張り巡らされていたのだ。
貨幣での取引もあったが、1945年(敗戦)以後も物々交換が行われていたことはとても重要だ。

日本海からのサバの道は幾通りもある


サバが送られた経路の主要なものを挙げる。
高浜・小浜からの丹波行き。
若狭、高浜・小浜からは名田庄を越えて和知(わち。現京都府京丹波町)に至り丹波・京を目指した。名田庄からはいくつかの経路がある
熊川宿経由は2つ。
三方からは現若狭町の藤井、十村(とむら)から熊川宿。
小浜からは「丹波行き」以上に頻繁に、遠敷(おにゅう)を経て熊川宿。
熊川宿からの経路も2つ。
熊川宿から朽木(朽木街道)、滋賀県大津市花折を経て京の街に向かう。
熊川宿から滋賀県高島市今津に出る。そして舟運で大津、大津から京である。近畿(畿内)・伊勢地方で「津」は重要な港のことなので、今津が昔から重要な港であったことがわかる。
日本海からのサバの道はもっと複雑であったかも知れない。
現在、サバの道の主だったものを、観光的に「鯖街道」という。
この原始的な交易が、鉄道輸送やトラック輸送に代わり、消滅していく。

若狭と近江の交流が「へしこ」を、「なれずし」を生む


三方、小浜からの商人(歩行交易者)にとって、熊川宿は決して目的地ではなく、途中の里(消費者のいる村落)で魚を売りさばきたかった。
商人は里で、サバを「へしこ」に漬けた。
「さばのなれずし」が琵琶湖周辺に今も残っているのも、徒歩での交易によるところ大だと思っている。
「さばのなれずし」は、湖魚のなれずしを作る技術があった滋賀県琵琶湖周辺で作られたのが先で、それが若狭地方に伝わって、若狭地方の「さばのなれずし」が生まれたのかも知れない。
また、サバの産地側、若狭地方で「へしこ」や「なれずし」作るときの糠と米の供給地は里である若狭町、そして滋賀県の穀倉地帯だ。

ちなみに「焼きさば」の食文化上の位置(価値観)に関してはまだ勉強不足でなにもわかっていない。「浜で魚を焼いて山間部に運ぶ」地域は非常に広域なので、別の次元で考えるべきだ。

それにしても福井県若狭地方と滋賀県、京都市周辺の結びつきは深い。
ボクが勝手に往復しただけの話だが、旅を続けて本コラムもじょじょに書き改めていく。
参考/『西日本庶民交易史の研究』(胡桃沢勘次 文献出版 2000)など。


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