関東平野の「しもつかれ」について

年末になるとサケの頭が並ぶ「しもつかれ」地帯

塩ザケの頭

「しもつかれ」という奇妙な名の料理がある。「しもつかれ」は栃木県の広い地域での呼び名で、「しもつかり」、「しみつかれ」、「すみつかり」、「すみつかれ」、「すみずかり」ともいう。
関東の栃木県、群馬県、茨城県、埼玉県でともいい初午の前日に作る。初午の日(今は新暦の2月の最初の午の日だが、本来は旧暦なので新暦だと3月初旬)にわらづとなどにくるみ稲荷神に奉る。
主な材料は塩ザケの頭である。関東でサケを食べる習慣はそれこそ歴史時代以前からだと思う。塩の交流はあったと思うので、すべてが塩をしたものに違いない。「しもつかれ」の分布域の中心にあるのは利根川である。鬼怒川も渡良瀬川も、荒川も利根川水系だ。唯一の例外が那珂川流域の那賀川町であるが、距離の関係からすると流域的に関連があるはずである。
文献的には那須塩原市、さくら市にもある。那須塩原市西那須野町には〈二月の午の日(初午)には鳥ヶ森のお稲荷さんにおまいりして、五色のと、わらつとに赤飯としもつかれを入れたものを供え、農産物の豊作祈願をする〉。
茨城県東部の霞ヶ浦、北茨城市などと、小貝川流域の真岡、筑西、下妻などを知れべていないし、筑波山周辺、茨城町、水戸市、笠間、太子町などどうなのだろう? 当たり前だが海辺で「しもつかれ」を作る可能性はほどんどないと考えている。
現在のところ栃木県日光市、栃木市・小山市・宇都宮市今里・那須郡那珂川町、群馬県板倉町、茨城県結城市・境町、埼玉県熊谷市下久のものは手に入れているし、実際に家庭で作られているのを確認ずみ。栃木県さくら市と群馬県館林市は聞取をしているが不十分だと感じている。
この料理の起源や呼び名の意味は不明。鈴木晋一は『宇治拾物語』(源隆国/鎌倉時代前期、1221-1221 作成京でだと思われる)の「慈恵僧正戒壇築たる事」に「すむつかり」があって〈大豆を煎って酢をかけたもの。酢をかけると大豆に皺が寄って箸で挟みやすくなる。これを子どもがむずがって顔をくしゃくしゃにしているようだというので、「酢憤(すむつか)り」という〉という話が出ている。慈恵僧正は良源は天台座主。
とすると、似たような料理は平安時代の京にもあったことになる。
【材料/大根、ニンジン、塩引き鮭の頭、節分の大豆、酒粕】
大根とニンジンは鬼おろしで粗くおろし。
塩引き鮭の頭は焼いてぶつ切りにし、ゆがいて細かくほぐす。
大豆は焙烙で煎って、皮を取り除く。
鍋にニンジン、大根、鮭、大豆を入れ、ことことと煮込む。
油揚げや竹輪を入れるという家もあり、なめこが入ったものもあった。
塩引きが柔らかく煮崩れるようになったら酒粕をのせて、柔らかくなるまで煮て、最後に醤油で味付けする。
八升だきの鍋で作るので、幾日にもわたって食べる。初午の日に赤飯と食べるとおいしい。
『聞書き 日本の食事』(農文協力)、『熊谷市史調査報告書 民俗編 第二集 食生活』(熊谷市史編さん室)『たべもの史話』(鈴木晋一 平凡社)ほか

市販品があり、ほとんどの家庭で初午用に買い求めている


聞いた限りでは、「しもつかれ」は、栃木県では新年になるとスーパーに並ぶものだという。ほとんどの家庭では自宅では作らず、市販品で初午用に買い求めている。
味は食べてみないとわからないという、表現の難しいものである。
鬼下ろしで大きく下ろした大根とにんじんの味がきて、細かくなりすぎて存在感のなくなったサケのうま味というか、サケらしいだしは感じられるものの、サケの身の存在感はない。
酒粕から微かだが酸味が出ていて、甘味も出ているようでもある。酒粕は全体の味わいをまとめ上げる役割を果たしているようだ。
塩味はサケからのものと、醤油ではないかと思うが、近年作られたものは、非常に塩分濃度が低い。
食べるとどこにも特徴を見いだせないのである。穏やかに甘く、ほんの少しの醤油の塩分、サケのうま味があるものの、いちばん強く感じるのは大根の味である。
ちなみに栃木県栃木市の一般家庭で頂いたことがある。帰りにお土産にいただけるというのを、すまないと思いながら断っている。
その方達も不快に感じることはなく、当然のことだと思ったようである。
毎年作って困り、もらって困るもののひとつだとも聞いた。
もしも、「しもつかれ」がおいしいものならば、初午にだけ作られるのではなく、年中作っているはずである。
このおいしいとは決して思えないものでも、できる限り残して欲しいというのは他県人のわがままかも知れない。
千葉県の「とうぞ」とともに不得要領な料理としておきたい。

栃木県日光市今市、花市としもつかれ


栃木県日光市今市では初午の行事が盛んである。当然、盛んに「しもつかれ」が作られている。
今市は日光東照宮の入り口であり、江戸時代には日光例幣使もとまる大きな宿場だった。
2月11日には「花市」が開催され、たくさんの露店が並ぶ。
今市は山間部の町であり、サケの産地からは遠い。
塩ザケの消費地で、当然塩ザケは御馳走である。
塩ザケの産地からいちばん遠い地で、作られている「しもつかれ」である。
写真は日光市今市の「花市」。

栃木県日光市今市、しもつかれチャンピオンのしもつかれ


栃木県日光市今市、「花市」の日に行われているのが、「しもつかれコンテスト」である。
写真はチャンピオンになった方が作ったもので、大豆、にんじん、大根、サケの他に油揚げが入っている。
「しもつかれ」の中でもあっさりしていて、食べやすい。

群馬県板倉町のしもつかれ


群馬県邑楽郡板倉町のもの。
この地域は渡良瀬川と利根川が合流する関東平野の中心に広がる水郷地帯で、盛んに淡水魚を食べる。
栃木県、茨城県、群馬県、埼玉県が接していて、地域共通の食文化が見られる。
ここでは大豆、にんじん、大根、サケの他に竹輪が入っている。
ちなみに板倉町の西にあるのが、江戸時代に館林藩のあった館林市である。関東には珍しく10万石と藩域が大きく、徳川四天王のひとり、榊原康政が立藩、徳川綱吉が藩主であったこともある御三家に次ぐ家格の藩である。
この館林市の、東の地域でも「しもつかれ」が作られていたという聞取をしている。

栃木県那珂川町の「しもつかれ」


栃木県那珂川町は県東部、那須地方にある。中央を流れるのが那珂川である。
那珂川では今も銛でのサケ漁、簗でのサケ漁が行われており、サケの産地でもある。
大豆、にんじん、大根、サケの他に油揚げ入である。
しっかり煮込んでいて、非常に柔らかくどろっとしている。
[栃木県那須郡那珂川町]


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