鳥羽市安楽島貝類図鑑 イガイ

貝の同定は直感を排除して疑ってかかることが重要


三重県くらい海が多様なところはないと思う。北は木曽三川の河口域、伊勢湾があり、渥美半島と鳥羽市を結ぶ線から北は伊勢湾、南は太平洋になる。
鳥羽市は内湾でもあり外洋でもあり、しかも人が住んでいる島が多くある。
民俗学的にも面白く、生物好きにとってもパラダイスといってもいいだろう。
さて、鳥羽市安楽島の出間リカさんに鳥羽市の貝いろいろを送って頂いた。ついでにとは言っては失礼だが、厳密に同定してみたい。
まずは、鳥羽市安楽島で「いのかい」と呼ばれているイガイである。
イガイの同定では殻長(shell length/二枚貝の場合、貝殻のいちばん長い部分の長さ)10cm以下の個体を見ると一日苦しむことになる。
1920年頃まで、国内に生息している、黒っぽくて貝殻が比較的薄く、岩などに足糸(軟体から分泌して作り出した糸状のもの)でくっついている比較的大形の二枚貝はイガイだけだった。
そこに同年頃、ヨーロッパからムラサキイガイがやってきた。ムラサキイガイはそれまで国内にいたイガイよりも小型で貝殻の幅が広く、表面が滑らかである。
ただし、イガイと生息水深(見つかる深さ)があまり変わらない上に、若い個体(小さなもの)は見た目が非常に似ている。しかも大問題なのは貝類図鑑の標本画像が両方とも古すぎて使えない。
ちなみにタイプ標本(種として記載されたときの実物)は貝の場合は貝殻だということも大問題なのである。軟体(体)が存在しないということは検索(種名を明らかにするために調べるポイント)は貝殻だけということになる。
さらにさらに大変なのは貝には変異(形にばらつき)が多いのである。

典型的な個体に出合えるってありがたい


今回、鳥羽市安楽島からきた二枚貝は間違いなくイガイである。
イガイの検索ポイントは、「比較的貝殻が細長く、殻頂(とんがった部分)は鷲鼻で曲がる。貝殻の内側は真珠のような光沢があり、点刻(絵画などで点で描くこと)が見えること。貝殻の周囲はぎざぎざに刻まれない」ことだ。
今回の個体は、殻長が17cmもあり、ちゃんと鷲鼻に曲がっている。内側の真珠の光沢も美しく、点刻もはっきりと見える。
こんなに典型的なイガイに出合ったのは久しぶりである。
出間リカさんに感謝。



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