カサゴは煮つけ用の魚

下北のカサゴを煮つける

下北郡水のカサゴ

比較的浅場の岩礁域にいる現在のカサゴ亜目の、メバル属、カサゴ属の魚たちは、江戸時代にはあまりよくわからない魚たちだったようだ。かの18世紀の『和漢三才図会』の記述すらそっけない。例えばカサゴはカサゴそのものらしいけど、カサゴを含めて藻魚や目張とされるものが何か? はてんでわからない。
この状態が今でも続いていて、カサゴなどは国内に生きている人のわずか1パーセントの人が知っているか否か的な魚だと思う。
ほんの数年前に無音のテレビ番組を見る仕事をしていたら、タレントが「初めて見ましたうんぬん」、脚本家が「こんな珍しい魚が食べられることをうんぬん」なんて場面があった。これが実際に放送されたはずだが、それほどカサゴは世に知られていない。
魚を調べているとイロハのイ以下の魚なので、現世の普通との差がありすぎて困る。
ただ江戸時代、カサゴはどちらかというと下魚であった。それが沿岸域の環境が悪化し、沿岸域の漁業が衰退するにつれて値上がりし始める。1970年代の終わり頃、家族で渋谷まで魚を食べに行ったことがある。「この魚は高いんだぞ」と言われたのがカサゴだったのだけは、魚類学を一から勉強し始めたときなので鮮明に覚えている。当時は「きんき(キチジ)」よりもカサゴだった可能性が高い。
そんなカサゴには様々な色変化がある。この体色変化をサイトに反映させようと思っていたときに見つけたのが、青森県下北郡水(むつ市)のカサゴだ。鮮やかな色合いに思わず手が出てしまった。脇に全部買いしそうな料理屋さんがいたのですまんすまん、といいながら1尾だけ抜く。

カサゴの煮つけは飯どろぼう

カサゴの煮つけ

カサゴは刺身にもなるが、魚類学者、蒲原稔治(明治生まれの偉大な魚類学者)の言うがごとく煮つけ用の魚なのである。煮つけ用の魚を煮つけにする、これほど理に適ったことはない。
カサゴは水洗い。内臓はずぼ抜き(口から箸を入れて抜き出す)にしたいが、胃の内容物、成熟具合などを見たいので腹を割く。
湯に通して冷水に落とし、残った鱗とぬめりなどを流し、水分を切っておく。
煮汁はいつもは数回使い回して再利用するのだけど、今回は新規に作る。酒・砂糖・醤油・水を沸騰させた中にカサゴ(今回は同じ下北産のアカメバルと一緒に)を入れて煮る。味つけは煮ながら何度か加減する。ちなみにみりんを使ってもいいし、砂糖を使わなくてもいい。料理は自由自在がベストだ。
さて、出来上がったカサゴの煮つけはご飯のおかずにした。この煮つけで食べるご飯ほどうまいものはないが、煮つけがうまいのかご飯がうまいのか? 食べているそのときにすらわからない。


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