徳島・貞光町覚え書き1 貞光川「かんのう」について
荒れ果てた川に残る貴重な遺構、「かんのう」
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吉野川の支流である貞光川(徳島県美馬郡つるぎ町)は今、明らかに不健康というか重い病気にかかった状況にある。
たぶんもう取り返しがつかないと思うが、今に残るものを少しずつ整理してきたい。
非常に健全であったときの貞光川を知っている人は今やほとんどいない。
ただ1960年代、小さい川であるが長い上流域があり、短い中流域があり、吉野川との合流近くは下流域に近い環境であった。
それが今やかなり奥(上流)の旧端山村あたりまで行かないと中流域の環境ではなくなっている。
山が荒れているので吉野川合流地点から貞光市街地の端、木綿麻橋(ゆうまばし)くらいまでの川原が荒廃してしまっている。
この市街地周辺の流域にもいたオオヨシノボリは、木綿麻橋の上流域に行かないと見られないのだと思う。
岸に植えられた竹の枝がたわむくらいいたホタルはまだいるのだろうか?
吉野川の大川に対して小川(こがわ)と呼ばれていた貞光川にいなかったニゴイが、わんさかいるのも不気味だ。
この原因は明らかである。
剣山周辺の森林の荒廃と自然環境を考えない護岸である。
人間は自分の住む区域(生活圏)を暴力的に広げ、針葉樹の無理な植林をし、森林管理を放棄している。
その結果、川の生き物の種類が減り、川原も川底も泥だらけになった。
現在の貞光川には歴史的遺産が残り、美しかったときの名残はわずかしかない。
過去に見つけたのは2つ。
そのひとつが「かんのう」、そして青石の構造物だ。
今現在、江戸時代からの遺構「かんのう」は見る影もない
川岸のかんのう
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「かんのう」は長い間その正体がわからなかった。なんとなくわかったのは2007年の『徳島の歴史』(山川出版 2007)による。
〈寛永期から承応(一六二四~四四)・明暦期(一六五二~五八)にかけて徳島藩では新田開発の奨励、川除(かわよけ)・用水普請などの勧農政策が積極的に打ちだされた。〉
すなわり中世、戦国期の三好市、後に長曽我部氏のあと蜂須賀家が入部してくる。
徳島藩は蜂須賀家入部すぐの政治的安定から経済的な安定へと舵をきったのが寛政期なのだ。
全国的に見ると寛永期は真の意味での近代の幕開けである。
それまで輸入い頼ってきた銭が寛永通宝鋳造で国内隅々まで行き渡り、また政治の安定とともに中世に発展を遂げた土木技術が実生活に使われる。
要するに「かんのう」は徳川諸藩が江戸前期に行った勧農・川除政策の遺産だったのだ。
ちなみに寛永期は本当の意味での近世の幕開け期といっていい。
注/平安時代末1100年代後半の平家台頭は宋からの銭の輸入による。これから寛永期までを輸入銭の時代であり、中世と言っていいのではないか、と勝手に思っている。
貞光の子供は知らず知らずの内に川にあるものの名前、淵や瀬の名前を覚えた。
「かんのう」は川の岸に石積みを造り、それを守るように大きな蛇籠(竹の籠や鉄線であんだ籠に石や砂利をつめたもの)を並べ、木の杭で止めたものだ。
川岸の石積みは川の水面近くにあって上面は平らで歩きやすかった。
「どいの岸」という川の流れのゆるむところにある「かんのう」は、水面の石積みの上、1mくらいが石垣になっていて、その上面も平らになっていた。
子供は「かんのう」はとても身近なものだったので真っ先におぼえたのではないか。
この「かんのう」はどうやら徳島藩が進めた川除の産物で、勧農政策で作られたので「勧農」と呼ばれるようになったのだ。
写真は「かんのう」の杭と石。
「かんのう」消滅で、生物が激減、絶滅した生き物も少なくない
潜水橋
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ボクが子供の頃は「かんのう」が江戸時代そのままの状態で残っていた。
明暦で川除普請は終わったわけではなく、明らかに明治・大正と受け継がれてきたのだろう。
この石と木と鉄線で出来た構造物の中には、えび(ヌマエビ)、じんぞく(カワヨシノボリ)、あかぎぎ(アカザ)、くろぎぎ(ギギ)、うなぎ(ニホンウナギ)、ごまうなぎ(オオウナギ)、川どじょう(オオシマドジョウ)、どぶろく(ヌマチチブ)がいた。
カゲロウ類であるヘビトンボやタガメ、ミズカマキリ、タイコウチ、ミズスマシなど甲虫類の成虫、幼虫など数知れずいたのだ。
目にとまるだけでもこれだけの生き物がいたのだから昆虫や細かい甲殻類、人の手の届かない奥に未知の生き物もいたはずだ。
この「かんのう」は1976年台風17号での水害以降の護岸で破壊し尽くされた。
今や泥と砂利のたまった川底に杭と大きめの石のみが残る。
武田砂鉄のラジオ番組で人間にも主権があるのだからクマにも主権がなければならない、といっていた人がいた。
主権とはなにか? とか難しくなるのでボクなりの言語を使うと、人間もその他の生き物も平等でなければならない。
写真は草だらけの潜水橋(八幡橋)。

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