煮干しは絶品。ネンブツダイとクロホシイシモチ
漁業的にも釣りの世界でも嫌われている

未利用魚、未利用魚と騒がしいが、未利用魚がわかっている人はいない。未利用魚は奥が深く、まだまだ定見がない。ここに未利用魚の基礎知識を始めていきたい。
最大の問題点は未利用魚の定義が曖昧なことだ。未利用魚問題は、巨大なデータを見て初めてわかるが、国内を見渡す限り、どこにもそんなものはなく、あえて言えば我がサイトが一番大きい。また、魚価を知らなければ、未利用魚はわからない、が、そのためには、日常的に魚を買わないとダメだが、そんな人間見た事がない。
当然国内各地で聞取をする必要があるが、例えば漁業者に聞いてもいいが、加工品業者、買受人(大卸・仲卸)、小売業の話も重要であり、消費者も重要だということを忘れている。いちばん未利用魚がわからないのは行政、そして漁業者かも知れないと言う事実を知るべきだ。
最近、未利用魚にマイナー魚を加えるなど、驚くほど愚かな人間すらいる。今現在のところ未利用魚とは、比較的水揚げが多く、お金にならない魚のことである。
高知県や徳島県で、「赤じゃこ」とか「はりめ」と呼ばれている煮干しが作られている。
原材料はスズキ目テンジクダイ科のネンブツダイとクロホシイシモチである。
入るときは定置網を赤く染める

煮干しの話に移る前に、この2種は国内のほとんどの地域で捨てられている。
定置網などに大量に入ることがあるが、この2種を食べる食文化を持つ地域はほとんどない。
口が大きくハリにかかりやすいので、防波堤釣り(波止釣り)や磯釣りの嫌われものである。
■定置網に入ったネンブツダイ
テンジクダイ科テンジクダイが高値なら、この2種が高値でもいいではないか

ただ、この2種は下ろしてもきれいな魚だし、手間いらずだし、おいしい魚だということを忘れてはならない。
同じテンジクダイ科テンジクダイは瀬戸内海では重要な魚のひとつで、瀬戸内海ではときに高値がつく魚だが、この2種も同様に食べることができるのである。
関西以西では魚の唐揚げを盛んに作るが、この2種の唐揚げなど一度食べたら目から鱗といったうまさである。

今、急速に食文化、中でも食品加工の、全国画一化が進んでいる。これも未利用魚を大量に産みだしている。
1960年代から言われていることだが、今は、貴重な宝物であるはずの地域の食文化が効率化という画一化のために消滅しているのだ。
そのひとつが煮干し加工、食文化である。
煮干しというとカタクチイワシやマイワシなどしか思い浮かべられない人が多いが、全国的に見ると非常に多彩である。
この多彩さを作り出していたのが、産地周辺にあった小さな魚屋や加工場である。
この地域地域にある小さな魚屋や加工場は急速に姿を消しており、今や貴重な存在となっている。
定置網、巻き網などには、無数の小さな魚が水揚げされる。
この小さな魚は小さいからこそ煮干しに加工できた。
ところがこの貴重な多種類の小魚で作る煮干しが消えて、特定魚種の煮干しの大量生産品ばかりになっているのだ。
生産効率を考えると大量生産でもいいが、非常に扱う魚種は選択的になる。
選択的に生物を食べることは、明らかに悪であるということも知って置くべきだ。
決まった魚を大量に煮干し加工することが進みすぎると、本来鮮魚として流通できないサイズの魚の行き場がなくなる。
しかも煮干しという多様なうま味を生み出す加工品が、単一のうま味を生み出すだけのものになる。
■写真は高知県宿毛市の「はりめ」で、原料はネンブツダイ
ところてんをだしつゆで食べる地域にはなくてはならない

面白いことに、この2種の煮干しは徳島県南部でも高知県でも、素麺のつゆにしたり、ところてんのつゆの材料になる。
また、この両地域の共通点は、ところてんを食べるときのつゆが「だしつゆ」であることだが、このだしの素もこの2種なのだ。
こればかりはマイワシやカタクチイワシの煮干しでは作れない。
この「赤じゃこ」、「はりめ」の煮干しが消滅すると、この地域の「ところてんをだしつゆで食べる」食文化自体が消えてなくなる可能性すらある。
その上、未利用魚が増える。
未利用魚は伝統食文化が消えることで、増えるといってもいいだろう。
ちなみに日本全国の煮干しを集めてみると、思った以上に多種の魚で煮干しが作られていることがわかる。
水産業をマクロで考えると見えてこない小さな魚たちだって、未利用魚増大の原因となりえるのだ。
■写真は徳島県海部郡海陽町竹ヶ島のところてんで、一本箸で食べる。