アブラツノザメは東京のごちそうだった

細長い箱は大型のアブラツノザメを使っているからこそ


初めてアブラツノザメの棒ざめ(剥き身、むきサメ)を見たのは東京築地場外だった。場外から場内に入ったときにも、並んでいて、奥で切り身にしていたのを見ている。
その切身を見て初めて東京の東、新小岩や小岩で買った謎の切り身(物体)の正体がわかった。アブラツノザメだったのである。北隆館の図鑑を暗記しているときだったので、非常に嬉しかった。
ちなみにこの棒ざめは東京都内下町だけではなく、吉祥寺、武蔵小金井、世田谷、八王子と、どこにでもあるありふれたものだった。
それが今、都内では探さないと手に入らない。

1990年代、八王子にあった東市(築地魚市場)には、小山になっており、商圏の魚屋、スーパーなどが箱買いしていたものだ。
その棒ざめを送り出していたのが、田向商店である。
田向商店の発泡は細長く特殊な形だった。
大型のアブラツノザメの「むき鮫」だからだ。
棒ざめの荷には必ず、田向商店の文字があった。
我が家に丸のままのアブラツノザメを送ってくれたのは田向商店、田向常城(敬称略)である。
それまで宮城県塩釜で買った、ぼろぼろになったアブラツノザメのフィルム画像しか持っていなかったので、深く感謝したものである。

アブラツノザメはそのままでおいしいと思ったものだ


その田向商店、田向常城(敬称略)は考える人だ。
青森中央市場で学者とあだ名されていたくらいなので、ラーメンなど様々なサメ商品をこしらえ、「あぶらざめ(アブラツノザメ)」の処理に関してもいろんな工夫を凝らしていた。
本当にそこまでやる必要があるのか、疑問だったのもあって、ときにいじめた気もする。
ごめんね、と言いたい。鮫男よ永遠になのだ。

アブラツノザメを食べて、嫌いという人はいないと思う


さて、田向商店、田向常城がくれたアブラツノザメに特別な処理を施した切身は、当然煮つけにしてみた。
身質がよく、もちろん臭味などは皆無で、むしろ上品すぎると思った。
アブラツノザメの身(筋肉)は元来、上品過ぎる味なのである。
食べながら、あっさり控えな味つけにすべきだったと思ったほどだ。
今回、新潟県上越市でも感じたことだが、アブラツノザメは万人受けする味なのだ。
食べて、嫌いという人は希だと思う。

今やアブラツノザメを狙う漁師も、業者も減少の一途をたどっている。
それなのに、サメというと恐怖の存在で「ジョーズ」だとか、「サメ食べるんですか?」なんてリアクションをするバカがいる。
多様な生物を食べることで自然は守れるし、温暖化も防げる。
このような伝統食材がなくなることだけは、避けたい。


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