10cm SL 前後になる。背鰭は腹鰭よりも遙かに後方にある。脂鰭がある。雄の臀鰭鱗数は16-18。受け口で口蓋骨歯がある。体高は低く、黒点が尾鰭・体側に並ぶが尾柄部上下からの三角形を思わせる黒点はないか不明瞭。[木曽川河口域]
シラウオの生物写真一覧 (クリックで上に拡大表示)
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珍魚度・珍しさ
★★
少し努力すれば手に入る魚貝の物知り度
★★★
知っていたら通人級食べ物としての重要度
★★★
一般的(流通量は普通)味の評価度
★★★★
非常に美味
分類
顎口上綱硬骨魚綱条鰭亜綱新鰭区新骨亜区正新骨下区側原棘鰭上目キュウリウオ目シラウオ科シラウオ属外国名
学名
Salangichthys microdon (Bleeker, 1860)漢字・学名由来
漢字 白魚、鱠残魚、鮊、王余魚、銀魚 Standard Japanese name / Sirauo
由来・語源 生きているときは透明だが、死ぬと白いため。非常に古くからの一般的な呼び名。
「しらうお」と「しろうお」の言語はしばしば混同があり、ハゼ科のシロウオであったり本種であったり、また「ひうお(琵琶湖の稚アユ)」であったりするので要注意。
また和漢三才図会や魚鑑にもあるが、魚の黒い色素のない稚魚期のものを「しらす」というが、これもしばしば本種の白魚と混同されている。
鱠残魚 しろいお クワイツアンイエイ 〈〔俗に白魚という〕 ……鱠残魚は大きなもので四、五寸。身は箸のように丸く、銀のように潔白で、鱗はなく、すでに鱠(なます)にしたような魚のようで、ただ目に両黒点があるだけである。備前平江、伊勢桑名に多し、武蔵角田川、中川のものも、桑名の種といえども水(みつ)美なれば、魚も亦美なり〉。今でもそうだが、桑名に多かったのだろう。また東都(武蔵国江戸)周辺では角田川(隅田川)、中川が有名だったことがここでもわかる。『魚鑑』(武井周作 天保辛卯 1831)
〈硬骨魚目等椎亞目シラウヲ科シラウヲ屬 シラウヲ Salangichthys microdon BLEEKER〉。『日本産魚類検索』(岡田彌一郎、松原喜代松 三省堂 初版1938)Bleeker
Pieter Bleeker(ピーター・ブリーカー 1819-1878 オランダ)。医師、魚類学者。『東インドオランダ領の魚類図鑑』(Atlas Ichtyologique des Indes Orientales Netherlandaises 1862-1878)。軍医としてバタビア(現インドネシアジャカルタ)に赴任。インド洋、西太平洋の魚を採取。地方名・市場名
生息域
海水・汽水。主要河川の河口域。
北海道、青森県小川原湖・十三湖、秋田県八郎湖、京都府由良川河口域、島根県中海・宍道湖、茨城県、東京湾静岡県浜名湖、岡山、熊本。
サハリン、沿海州から朝鮮半島東岸。生態
沿岸域、河口付近、汽水域に棲息。
シラウオの寿命は1年。
春、2月〜5月に産卵。産卵後死んでしまう。
動物プランクトン、ワムシ類、イサザアミなどをえさとしている。
孵化して夏には2〜4センチと小さいが漁獲の対象となる。
10センチくらいになるが雌(めす)の方が大きい。基本情報
主に食用となっているのはシラウオとイシカワシラウオの2種。北海道の汽水湖、青森県小川原湖、茨城県霞ヶ浦、島根県宍道湖、中海など淡水の影響の汽水域などでとれるのがシラウオ。千葉県から福島県などの外洋に面した淡水の影響のない海域であがるのがイシカワシラウオである。ともに味は非常によく高値で取引されている。よくハゼ科のシロウオとも混同されているが、こちらは非常に特種な食材である。実社会で混同する可能性は低い。
歌舞伎、三人吉三廓初買(さんにんきちさくるわのはつがい)に「月もおぼろに白魚の篝もかすむ……」とお嬢吉三の台詞にあるのは当然、本種のことだ。春に産卵のために大川(隅田川河口から千住大橋にかけて)集まってきたシラウオを、たいまつをかかげとっている光景が目に浮かぶ。
この台詞にあるように、春の季題、季語だ。おうおうにして大きな湾を控えている江戸や名古屋、大阪などの汽水域でとれるものであったので、古くから親しまれてきたのだ。
現在では内湾の自然破壊、護岸などで漁獲量が減っている。春らしい魚ではあるが、入荷は年間を通してあり、値段も安定してやや高値、時期には非常に高価となる。
関東では江戸前天ぷらの代表的な種。割烹料理店でも重要な素材。刺身、ぬた、椀種と大活躍する。
珍魚度 普通の食用魚だ。ただし高価な魚なので普通のスーパーには並ばない。やや高級な店にある。水産基本情報
市場での評価/入荷量は少ない。小型はやや高値。大きく型の揃ったものは非常に高い。
漁法/底曳き網、四つ手網
産地/茨城県、北海道、青森県、秋田県、福井県、島根県選び方
ー味わい
旬は冬から早春だが、年間を通して味がいい。シロウオと違って旬が長い。
鱗はあるものの柔らかく小さいので丸ごと食べるもの。白身でまったくクセのないなかに、旨みがたっぷりある。後味が非常にいい。栄養
ー危険性など
横川吸虫メタセルカリアが寄生していることがある。腹痛、下痢を発症することがある。食べ方・料理法・作り方 (基本はオススメ順掲載です)
シラウオの料理・レシピ・食べ方/揚げる(天ぷら、唐揚げ)、生食(刺身、酢じめ)、煮る(アヒージョ、卵とじ、しょうゆ煮)、汁(吸物)クリックで閉じます
シラウオの天ぷら 東京ではすしダネとしても重要だが、春の天ぷらダネとしてもっと遙かに重要である。4、5尾の尾の部分をつまんで揚げるのが基本である。
シラウオは塩水で洗い、水分をよくきる。小麦粉をまぶして、4、5尾の尾をつまみ衣をつけて高温で短時間揚げる。
衣のさくっと香ばしい中に柔らかな身があり、この身が味わい深く、卵巣が甘い。終いにほろ苦さがくるところが魅力的だ。
シラウオの天ぷら(かき揚げ) 茨城県霞ヶ浦産の小振りのものをざっと塩水で洗って、水分をよくきる。小麦粉をまぶして衣をつけて高温で揚げる。今回は三つ葉を使ったがなんでもいい。意外に玉ねぎがおいしい。さくっとした中にシラウオの甘味とほろ苦さがあって非常にうまい。クリックで閉じます
シラウオの唐揚げ 塩水でざっと洗い水分をよくきる。冷蔵庫などで1時間以上ラップをしないで入れておいてもいい。片栗粉をまぶしてじっくり香ばしく揚げる。さらさらと軽く揚がり、ほろ苦さと香ばしさが楽しめておいしい。クリックで閉じますクリックで閉じます
シラウオの刺身 刺身と言ってもそのままの状態である。鱗はあっても弱く、内臓もきれい。身も卵巣などもみな一緒に食べてこそのおいしさがある。
強い塩水の中でざっと洗い水分をよくきる。これをこのまま生で食べる。
塩分濃度の濃いなかで洗うと身が締まり、生臭みもとれる。味の特徴はなんと言っても微かな苦みだろう。後から魚らしいうま味がくる。
シラウオの酢じめ 強めの塩水のなかで洗い。新しい塩水に2〜3分つける。ザルに上げて生酢で洗って水分をよく拭き取る。微かな酢の味に、身の甘味、ほどよい食感が楽しめる。より複雑で奥の深い味わいになる。クリックで閉じますシラウオの昆布締め 大きめの個体を選び、塩水で洗う。水分をよくきり、戻した昆布の上に挟む。2、3時間程度で食べられる。軽く柑橘類をふったり、わさびを乗せて食べるとおいしい。おいしい状態が長続きするので、数日、少しずつ食べられるのも魅力的だ。クリックで閉じますシラウオの漬け 大小にかかわらず作ることができる。シラウオは塩水などでさっと洗う。これを地(酒・みりん・醤油を一煮立ちさせたもの。アルコールがだめなら酒とみりんは煮きって使えばいい)。1時間以上漬け込んだら出来上がり。このまま食べられるが柚子などの香りをつけるといい酒の肴になる。ご飯に乗せてもおいしい。クリックで閉じますシラウオのアヒージョ アングラスならぬシラウオのアヒージョだ。器にたっぷりのニンニク、鷹の爪、オリーブオイルを入れて、塩水でざっと洗って水分をよく切ったシラウオを入れる。火にかけてニンニクの香りが立って、油が泡立ち始めたら出来上がり。シラウオだけではなく、オイル自体もおいしい。クリックで閉じますシラウオの卵とじ 塩水でさっと洗い水分を切っておく。カツオ節出しに酒・薄口しょうゆで味つけ。シラウオを入れて一呼吸置き、卵を溶き入れる。シラウオ、卵の火の通し加減はお好みで。シラウオと卵の相性はよくとても味わい深い。クリックで閉じますシラウオの佃煮 塩水でさっと洗い、水分をよくきる。酒・しょうゆを煮立たせたなかで短時間で火を通す。しょうゆは少なめにした方がシラウオ本来の味が生きる。砂糖などで甘味をつけるとご飯に合う。山椒、しょうがなど好みのもので風味をつける。クリックで閉じます好んで食べる地域・名物料理
ー加工品・名産品
釣り情報
ー歴史・ことわざ・雑学など
白魚・素魚 「白魚(シラウオ)」と「素魚(シロウオ)」の2種はよく混同される。前者は本種サケ目のシラウオで後者はスズキ目ハゼ科のシロウオである。シロウオ(素魚)は春先に産卵のために川に上るものをとり、躍り食いなどで食べるもの。躍り食い意外にはせいぜい卵とじになるくらいで言うなれば珍味である。
初代、歌川広重/名所江戸百景 「永代橋 佃しま」に隅田川河口、佃島で篝火をたく、「白魚舟」が描かれている。「八ツ見のはし」にも白魚舟がある。「八ツ見橋」とは現在の一石橋(東京都中央区日本橋石町1-2)から北を見ている図である。現在の東京駅の北であり、こんなところでもシラウオ漁が行われていたことになる。この一石橋の西に銭亀橋があり、明治30年(1897)までこの橋のたもとに四つ手網があったという。『明治商売往来』(仲田定之助 ちくま学芸文庫)
三人吉三廓初買 河竹黙阿弥の歌舞伎「三人吉三廓初買」でお嬢吉三の言う名せりふに「月も朧に白魚の篝も霞む春の宵」というのなどまさにこのシラウオ漁の篝火だろう。この江戸前のシラウオは昭和初期までとれていたという。
樗蒲(ちょぼ) シラウオは一樗蒲(ちょぼ)、二樗蒲と数える。樗蒲はサイコロの目総てを足した数から1を引いた20尾。
桑名のシラウオ 江戸時代には将軍家に献上していた。徳川家康にも桑名藩から献上していたという話がある。徳川家での初代藩主は本多忠勝なので、本多家からの献上となる。
野ざらし紀行の木曽三川河口域のシラウオ 松尾芭蕉(寛永21年/1644年〜元禄7年/1694)が『野ざらし紀行』(貞享元年8月から8ヶ月/1684)に〈桑名本當寺(現本統寺で揖斐川の西岸にある)にて……草の枕に寝あきて、まだほのぐらきうちに濱のかたに出て 明ぼのやしら魚しろきこと一寸〉。『芭蕉紀行文集 付 嵯峨日記』(校注 中村俊定 岩波文庫)。三重県桑名は今でもシラウオの産地。古くからの名物「白魚の紅梅煮」が今でも作られている。
その他の俳句
「白魚をつかみ量りの男の手」中村汀女
「錦絵に残る佃や白魚舟」中火臣
「錦白魚舟羞らえる帆を孕ましぬ」加倉井秋を
宍道湖七珍 島根県宍道湖のにいわゆる「宍道湖七珍」といわれる名物魚貝類があってそのひとつ。七珍はコイ、あまさぎ(わかさぎ)、ウナギ、スズキ、しじみ(ヤマトシジミ)、もろげえび(ヨシエビ)、そして白魚(しらうお)。
トノサマウオ(トンサンウオ 殿様魚) 『たべもの語源辞典』(清水桂一編 東京堂出版)に「トノサマウオ」が出てくるが、引用元が不明だ。有明海でのアリアケシラウオの呼び名「とんさんうお」と混同しているように思う。参考文献・協力
協力/伊藤勇人さん(三重県桑名市)、尾畑功さん(愛知県)
『新釈魚名考』(榮川省造 青銅企画出版)、『新 北のさかなたち』(北海道新聞社 監修/水島敏博、鳥澤雅 編/上田吉幸、前田圭司、嶋田宏、鷹見達也)、『島根のさかな』(島根水産試験場 山陰新報)、『魚類学 下』(落合明、田中克 恒星社厚生閣)、『新版俳句歳時記 春の部 角川書店)、『日本産魚類検索 全種の同定 第二版』(中坊徹次編 東海大学出版会)、『日本の淡水魚』(川那部浩哉、水野信彦 編・監修 山と渓谷社 2005年3版)