冬枯れどきの、八角の刺身

老若男女が食べて、みなうまい、とうなる魚である


1990年前後、こそこそと目立たぬように歩いて通った築地場内で、見つけると実にうれしい魚だった。
初めて買ったのがいつかはわからないが、築地の仲卸の話では、三陸と北海道からやってくる魚で「珍しいものじゃないから、ときどき顔を出せば」と言われて、その通りにすぐに見つけることが出来た。
食べたらこんなにうまいのか、とビックリした。
まったく食べたことのない、新しい味の発見でもあった。

ある意味、脂の乗り具合からして深海魚のようなのに、実は浅場に多い魚だというギャップも面白かった。
若いときなので脂嗜好が強かったのもあるが、勝手に「白い大トロ」なんてトクビレノートに打った(もちろんワープロで)ものだ。

このトロっとした脂が最初に口に広がる感じを表現するのは難しい。
魚らしいうま味もあるし、活け締めしていなくても心地よい食感がある。
刺身一切れの丸みのある味と鋭角的な味のバランスがいい。
半身で3人分のつもりが1人でも食べられそうなのは、口の中で味が変化するためだ。

酒の肴にとは思ったものだが、台湾の高山茶と一緒に食べる。
これも結構いい。

市場が冬枯れているときの救いの神


八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に『笹谷商店(釧路市)』から八角(トクビレの雄)が来ていた。
昔はそれなりに珍しい魚だが、今や寒い時季に市場(全国流通の場)では定番的な魚となっている。
八角はときどき買うものだけど、わざわざ探すには平凡な魚となって久しい。
ボクの場合、コイツを買うのは魚が冬枯れしているときで、最後の頼みとしてだ。

0.55kgの頭を落とし、上下一枚目の鱗を切り取り、皮を向く。
腹骨を取り、中骨に近いところの骨片も取る。
これを刺身状に切る。


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