今季初のてっちで大満足!

トラフグの本場は東へ、北へ


「トラフグの鍋」というと、どことなくしっくりこない。仕事をしていたときは年に一度は下町のフグ専門店でフグを食べていたが、店の隣の部屋が住居という庶民的な造りの割りにはお高くついた。
養殖フグは食べないので、東京でうまいトラを食べるともなると、エイヤー! なんて気合いを入れないと暖簾をくぐれなかった。
古く、日本橋魚河岸(東京市場)で「まふぐ」と言えばショウサイフグのことだった。「真」はもっとも普通の、その地でもっとも食べられているという意味でもある。たぶん松尾芭蕉の「ふくと(ふぐと)」もこの江戸時代の「まふぐ」だったわけで、敷居の低い庶民的な味でしかなかった。長年東京に高級魚トラフグは不似合いだったといえる。
昔、大阪は南の平凡な居酒屋で、「二人前作りましょか?」と「てっちり」が出て来た。確か1人前1500円くらいだったと思うが、最初から値段がわかっているので、銘々1人前追加して、ついでに雑炊まで食ったのが、ボクの「てっちり」の最高峰かも知れない。ちなみに「てっちり」のよいところは他にいろいろ頼まなくても仕上げまで完備されているところで、結局安く飲めたことになる。
さて、そんなトラフグ地図が大いに変わりつつある。漁場が北上傾向なのである。昔は玄海灘とか東シナ海とか山陰だったものが、今や三重県、静岡県、神奈川県を通り越して福島県でもたっぷり揚がっている。トラフグはもう西のものではなくなっている。その上、トラフグの相場は関東の方が安いようなのだ。
実際このところ、千葉県銚子から安い天然トラフグがやってきている。これが12月の声をきくと味が断然よくなるのはいいとしても、値段もグンと跳ね上がる。庶民の手の届かないものとなる前にトラを食うのが庶民の知恵である。
東京ではフグ調理師にみがいてもらわないと、食うことさえ出来ない。なんの意味があるんだこんな馬鹿げたこと、とは思うが仕方がない。八王子総合卸売協同組合、マル幸のクマゴロウがフグ調理師なのでやってもらうが、フグの取り扱いはより実質的に「フグの同定と毒の区別と除去」だけできればいいと思う。行政も漁業の現状を見るくせをつけなよ、といいたい。

鍋に入れるものはなんでもいい

トラフグのちり

さて、「みがき」は頭部の口周辺(さえずり)、骨つきの半身で「ちり」にする。「ちり」は身をつゆに放り込むと、「ちりっと縮むからちり」というが、のじ(野締めのことで漁の間に死んだ個体)なので、予め霜降りにする、のでちりっとはならないので、「ちり」ではないかも知れない。
さて、買い求めてきたトラフグは二枚に下ろして、ペーパータオルをミイラのようにぐるぐる巻きにして一晩水抜きをする。
これを一口大に切り、塩にまぶす。水分が出て来たら湯通しして冷水に落とし、粗熱を取る。
鍋つゆはめじか節(煮干しだしでもいい。もちろんだがだしの素でも大いに結構)と昆布のだしと水を半々。煮立ってきたら酒・塩で味つけしたもの。後は煮ながら食べるだけで。
具材はなんでもいい。青菜などはレタスでもいいし、ほうれん草だって、なんだっていいのが「のじ」のトラフグの鍋のよさだ。豆腐入れる入れない論争などもあるが、お好みでいいし、生麩などがあると入れると上等上等。
トラフグの酒塩鍋は今どきの若い衆の言葉で言うと鉄板の味だろう。煮て程よく絞まった身の、おいしさだけでノックアウトされた気分になれる。
よき時間まで提供してくれるのだから申し分がない。

仕舞いの雑炊は、大トリそのもの

トラフグの鍋の後の雑炊

仕舞いの雑炊でフルコースが〆となるが、いちばんうまいのは仕舞い際かな。
濃厚でいながら後口のいいだしで炊いた飯、溶き卵が優しい、うますぎる味を作り出す。
仕舞いの仕舞いの鍋底の見えたときの一かきがいちばんうまい。
これぞ、大トリの味である。


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