徳島の「かつ」に歴史あり

表面がさらりとしている、いまどきのフィッシュカツ


久しぶりに東京都大田市場に行った。
『フーディソン 魚ぽち』でいろいろ見せて頂いていたら、販売している加工品の中に、なんと「かつ」があった。
徳島県小松島市の『津久司蒲鉾』のものである。今や、「フィッシュカツ」というようだが、どうにも、この、こじゃれた名は馴染めない。
カレー風味のついた魚肉にパン粉をつけて揚げたものだ。
島根県の「赤てん」、山口県などで作られている「魚ロッケ」、中国地方・愛媛県などの「がんす」、佐賀県の「ミンチころっけ」などなどと作り方の基本は同じである。
徳島中央市場関連棟で会った老人は1945年の敗戦後、市場に大量に魚肉ソーセージが流通しだしたために、通常の蒲鉾竹輪が急激に売れなくなった。これに対抗するために作られたのが「かつ」だという。
ボクは徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)の商店街生まれである。ここに乳母車で朝方、食品を売りに来るオバチャンがいて、我が家で必ず買っていたのが「かつ」なのである。
初めて食べたときには幼児で、まだテレビでは「チロリン村とくるみの木」をやっていたはずなので、1960年前後だ。口に入れたら辛くて、泣いた憶えがある。ひりひりをとるために砂糖をなめた。
いつの間にか、このカレー味で、ぴりっと辛く、油でべとべとした「かつ」が食べられるようになり、お昼ご飯のおかずによく食べた。こちらも学校から昼ご飯に戻り、テレビ番組「おはなはん」が始まるまでに食べ終わり、昼休みが終わる1時までに学校に急いだ記憶とともに思い出す。
さて、久しぶりに食べた『津久司蒲鉾』のフィッシュカツがとてもおいしいのは、懐かしさがプラスされているからかも知れない。
ソースも醤油もつけないで、そのまま食べるのが好きだけど、食べ始めると止められない。2パック4枚しか買わなかったことを大いに後悔した。
ちなみに徳島県内では、いくつもの蒲鉾店が「フィッシュカツ」を作っている。それほど違いはないが、いろいろ食べ比べてもいいだろう。
ここだけの話だが、ちょっとだけ寂しいのは、昔食べた、あのべとべとがなくなり、あっさりと胸焼けしない味に変身していることだ。
もう一度だけでいいので、あのべとべとが食べてみたい。


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