市場人のおかずを頂く カツオの中落ち

市場の隠れ味


最近、カツオの旬がわからない。旬という言語は春夏秋冬あってこそのもので、春と秋が短くなったこともあって無意味なものになってしまっている。昔は晩春から初夏にかけての上りガツオ、秋の下りガツオなどと言っていればよかったが、今では市場に行けば年がら年中カツオが並んでいる。もちろんこれは漁労技術の革新もあるし、流通の発達もあるが、温暖化の悪恵みである可能性も強いと思っている。
誤解されると困るので。カツオが年中あるというのは生食用の話であって、加工用・冷凍カツオの在庫化などの需要を満たすなど、好不漁の話ではないので悪しからず。
2月も一旬が終わろうとしているある日、大きなカツオを下ろしながら「意外にいいよ」、と仲卸が言うのだ。結局、今年も周年カツオを食べることになりそうだな、と思いながら仲卸の店頭で腕組みをする。
市場では、昔は1本売りであったカツオを、最近では半身、4分の1で売ることが多くなっている。これは東京豊洲市場でも変わらない。
最近料理店は、魚を使い切れないほど仕入れなくなったし、多種多様な魚を出す傾向もある。当然、1本では使い切れない料理店がほとんどになったこともある。だいたいカツオなど足のはやい魚は、当日に使い切らないと捨てる(自家消費)ことになりかねない。
さてさて、仲卸で下ろすようになり、仲卸に残ってしまうのが中落ちだ。いかに上手に下ろしても骨周りに筋肉(身)は残る。これをせっせとスプーンでかき出して、おかずにする(食べる)のは仲卸の特権である。中骨周りの赤身は脂こそないものの、矢鱈にうまいのである。
これをハイエナのように狙っているのが誰あろうボクだったりする。できるだけ下ろしている時間帯に、下ろしている真ん前に立ってじいいっと腕組みして見ているだけだけど、ボクの眼力に負けて「持ってく?」と聞いてくれる。当然、「ありがとう」だ。
さて、八王子総合卸売協同組合、マル幸、クマゴロウ殿下が下ろしていたのは東京都三宅島産10.5kgの大カツオである。大型なのにも関わらず、実にいい身をしている。
考えてみると暮れから新年にかけて、鹿児島県で揚がるカツオも逸品なのだが、今年はどうなんだろう? 八王子という小さな空間だけでカツオをみていてはダメだ。早く豊洲に行かなくちゃ♪
それほど貪欲な人間ではないので小丼分だけもらってくる。これを醤油・少量のみりん・しょうが・にんにくに漬けて暫し置き、温めた飯の上に乗せて朝ご飯にする。
市場で醤油をつけずに味見をしている。身自体にうま味があり、カツオらしいほどよい酸味がある。このうま味が舌の上に少しの時間残る。これこそが赤身のよさだ。これに調味料をからめ味の一体化を図り、飯に乗せる。
はふはふと半分食い、少し醤油を足して熱々の番茶をそそぎ、ちゃちゃっとかき込む。後に残るのはきれいな茶碗だけだ。

スプーンでかき出す

中落ちの身は左右三枚に下ろしたとき、脊椎骨と神経棘(脊椎骨から背鰭に向かう骨)、血管棘(脊椎骨から臀鰭に向かう骨)が残る。当然、この縦方向の骨周りには筋肉がついている。
これを中落ちとか、かきだし、とか言う。



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