春夏秋冬おいしいのにイサキを知らない
だれでも知っていると思ったら大間違い
【学者にとっても水産のプロにとってもちっとも珍魚ではないし、超深海や、南北両極にいるわけでもない。魚屋でもスーパーでもときどき見かける魚だが、大量のエネルギーを使う養殖魚の影に隠れていたり、目的の魚の隣にいて見向きもされなかったり……。それを「隣の珍魚」という。たくさんの種類の魚を食べ、「隣の珍魚」を知っていると、温暖化にわずかだがストップをかけられる。とても自然に優しいし、環境にも優しい。しかも大いに自慢できる】
夏(決して夏だけではないが)だ! イサキだ、のイサキを知っている人は非常に少ない。でも、イサキを、「隣の」、とはいえ「珍魚」だというと「そんなバカな」という人と、「そうだ、見た事のない魚だ」とうなずく人に分かれるはずだ。
そしてこの国に住む人の9割以上は後者だ。イサキという魚の存在を知らない人の方が圧倒的に多い。
認知度が低いという意味での「隣の珍魚」なのだ。
スーパーで見かける機会も多いし、刺身になって並んでいることもある。目の前に置かれているのに、養殖ブリの隣で、見えていない人が多い。ちなみに養殖魚は季節などとは無関係で、価格が安定しているので儲かる商材である。イサキは大きさや状態で価格を決めなくてはならないので、労力のわりに儲からない。養殖魚が大好きな人は小売店や水産業界の大いなる味方だけど、自然や地球環境の味方だとは思えない。
イサキは、テレビからも雑誌からも、「知名度が低いから」、とか、「視聴率がとれないから」とかの理由で抹殺されている。とりあげてはいけない魚のひとつなのだ。
一般的な料理番組、雑誌の基本となるページ(料理法のページ)でイサキを見た、という人はいないはずである。料理といえば豚肉とか牛肉とか鶏肉とか、魚でもせいぜいサーモン(養殖もののサケ科の魚)とか、少し背伸びしてアジ(マアジ)とか、くらいしかテレビにも料理雑誌にも登場しない。
要するにマスコミの料理の関係者の頭に自然保護とか、食糧に自給率とかを真面目に考えている人は1人もいないのだ。
豚牛鶏なんて、そんなものを使った料理はバカでも作れるでしょ、といいたい。半世紀以上前から連綿と続く、料理の焼き直しを来る日も来る日も続けているテレビや料理研究家って、バカじゃない。温暖化のことも、急激に地球規模で魚(食べ物)がとれなくなっている、こともまったく考えてはいない。
この国で自給できるのは今現在、米と水産物だけなのに、おいしいパンを焼いたり、肉料理を作ったり、している場合なのか、愚か者達よ、と言いたい。
ごっそりとれる困りものを食べて、困りものにしない
さて、イサキは本州以南の岩礁域(磯)に生息している。比較的浅場にいてそのまま岸近くにとどまって暮らしている。マイワシなど多獲性魚類と比べると漁獲量は少ないものの、流通の場で見ない日はないというくらいたくさんとれている。
標準和名のイサキは東京市日本橋にあった魚河岸で採取した呼び名だと思われる。「いさぎ」という地域も非常に多い。
また「鍛冶屋殺(かじやごろし)」という和歌山県の地方名は骨が硬いため、骨が喉に刺さると、丈夫な鍛冶屋だって死んでしまう、という例えである。
関東などで「麦藁いさき」とも呼ぶ。麦の収穫期である初夏に旬を迎えるためで、山口県では「麦熟らし(むぎうらし)」ともいう。
初夏が旬だと思われていたのは、味がいいこともあるが、まとまってとれるためだ。産卵後の盛夏以外は周年味がいい。
普通、魚は大きいほどおいしいが、本種は小さくてもおいしいなどなど、非常に重宝な魚である。
全長20cmを超えると利用魚だが、以下だと人間の口に直接入らないという意味で未利用魚だ。温暖化で東北でも揚がるようになり、本州以南の漁港でこの小型のイサキは深刻な存在となっている。
昔々から塩焼きと言ったらイサキ、だった
古く塩焼きといえば、イサキというほど、イサキの塩焼きは人気があった。実際、現、2020年代になっても定番料理は塩焼きである。初夏などに出盛りの白子持ちのイサキの塩焼きを食べると、時季のものを食べているな、と感じる。
ついでにイサキの塩焼きでご飯がこの国の第一次産業にはいちばん優しいし、安全保障の観点からも優れている。