202501/23掲載

広島県備北庄原・三次のワニは何サメ?

備北はワニを主に生で食べている


国内で日常的にサメを食べる地域が年々減少している。あまりにも極端なサメのイメージが横行しているせいだし、あのジョーズのせいでもある。
サメは古代より至って平凡な食用魚である。
昔はアンモリアなどが身に混在して臭いものもあったが、現在流通するもので臭味のあるものは存在しない。なんの根拠もなく忌避されているサメは長年、日本列島の重要なたんぱく源であったし、人々を飢餓から救っていたのだ。
1945年の敗戦後食糧難の時代、東京都多摩地区などでは需要が多すぎて、供給が追いつかなかったくらいだ。
このサメの恐怖感を煽る人間は下劣である。

さて、サメ食といってもサメの種類は地域によって違っている。
サメ食というと広島県備北の庄原市、三次市がまず挙がるくらい、この地域は有名である。盆と正月に欠かせない魚でもある。
この備北の山間部に送っていたのは、サメ漁を行っている島根県五十猛だとする説もある。
この五十猛(現島根県大田市)から石見銀山の銀山街道をたどると三次に至る。
江戸時代はこの流通経路が使われていたのだろう。
現在、島根県の山間の地、奥出雲などでもサメが売られている。
この流通経路でサメの食文化が広がったに違いない。

当然、備北というよりも日本海から遠い地域と考えた方がいいのかも知れない。
この地域のサメ食文化をになっていた鮮魚店が急激に閉店しているのも気になる。
ここでは主に刺身で食べられている。煮凝りが作られているし、当然煮つけにもなる。
ただ、この地域で食べられているサメの種が文献によってしかわからなかった。

「わに」を食べる食文化は昔々から


『ものと人間との文化史 鮫』(矢野憲一 法政大学出版局) にあるサメの利用の部分を抜粋しておく。
ここに〈島根、鳥取、岡山、広島県の山間部で〉というのがある。先にも述べたが、島根県山間部は確認しているが岡山県、鳥取県では見ていない。
〈一番人気があるのはカセ(シュモクザメ)で、カセの中でもアカカセ(アカシュモクザメ)、つぎがイラギ(アオザメ)である。…………「わにの頭あります」と魚屋の店先にビラが張られ…………頭はニコゴリをとるのによいと喜んで買われていく〉
冠婚葬祭にも扱われる。正月になくてはならないものである。
吉舎町の辻八幡神社「神殿入(こうどのいり)」とよぶ秋まつりには、鮫がなくてはならなぬ第一の御馳走とされ、農家の軒先に魚屋が出張してきて魚市がたつ。〉
三次市で食べられているサメの刺身とはどんなものであったか?
〈「ワニは少々古いほうがおいしいと老人はいいますよ。むしろ昔は囲炉裏にぬくめて臭いを喜んだものですよ。」…………シュモクザメやアオザメの刺身は見たところマグロだといわれてもわからなぬもので、透き通った美しい赤色だ。ただし、どんなによく切れる包丁で切っても角がたたず、デレッと格好がつかないので家庭料理用である。味はねばっこいとろけるような感じで…………〉

今食べても非常においしいわに


備北庄原・三次で食べられていた、また今現在食べられているサメはなんだろう。
この地域は過去に2回通り過ぎただけなので、非常に乏しいデータでしかないが、実験した種を挙げておく。
「ねずみ」、「ねずみわに」と呼ばれるオナガザメ科ニタリのことだ。
マオナガは「おなが」、「泥ねずみ」と呼ばれ区別していたようである。ハチワレは広島市でも三次市でも見ていないという。
「いらぎ」はアオザメである。今現在もっとも備北で見かける機会が多い。
和歌山県、四国高知、宮崎県で揚がるものである。
かせはアカシュモクザメのことである。シロシュモクザメはおいしくないとも。
これは主に島根県から送られてきたという。

ここに「もうか(ネズミザメ)」も含まれるという情報もあるが、三次や流通上通過する広島では「ばけいらぎ」は刺身に向かないと考えられていた。
協力/松下豊治さん(チウスイ 広島県広島市)

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