ときどき無性に食べたくなる、くさや
いきなり好きになってしまった「くさや」
ときどきやたらに食べたくなるものがいくつかあるが、「くさや」もそのひとつだ。初めて食べたときのことをおぼえているのは、かなり衝撃を受けたからだ。江戸川区小岩に住んでいたが、ときどきお昼を近所で食べた。
昼は定食屋、夜は居酒屋という店で、「これ食べられるかな?」とサービスしていただいたのが、「くさや」である。
前夜に焼いたと言うが、臭いはそのままだった。食べたら、臭いではなく匂いに変わった。
生来の「くさや」好きだったようなのだ。小岩に住んでいたとき、近所で酒を飲むという事はほどんとなかったが、その店では「くさや」を千葉街道(国道14号線)の歩道で焼いていたと記憶する。それでも店の中まで匂いが漂ってきた。
「くさや」は確かに独特の匂いがあることはあるが、それ以上にクサヤ菌が生み出す、複雑なうま味がたまらない。
身が締まっているので、ボクは焼き上がりをほぐして、そこから酒の肴にする。
江戸時代から愛されてきた庶民の味だとされているが、伊豆諸島や伊豆からわざわざ江戸の町に送られてくるだけの魅力は十二分にあっただろう。
ちなみに「くさや」だけはボク個人はご飯のおかずにしない。
東京都八王子市で古くは織子さん(自動織機で布を織る)のおかずだったという老人がいるが、本当だろうか。
余談だが、我が家は集合住宅なので、「くさや」は各個部屋を閉め切っている夏しか食べられない。これだけはどうしようもないが悲しいね。
今や買うのもたいへんな時代となりにけり、だ
「くさや」は1980年代の東京都内では魚屋などで普通だった。スーパーにも並んでいてよく買ったものだ。
現在、近所のスーパーでは1軒だけが売っている。豊洲などに行くと必ず手に入るが、「くさや」をたくさん消費していた東京都でも年々手に入れにくくなっている。ここ数年、定期的に山梨県、埼玉県、群馬県のスーパーめぐりをしているが一度も見かけていない。
確実に手に入るのはデパートかも知れない。まさかデパートで買う時代がくるなんて思いもしなかったが、実際、知り合いにわざわざ新宿のデパートまで出て買っている人間がいるのである。
ボクの学生時代、江戸川区などの居酒屋の前を通ると、よく「くさや」の匂いがしてきたものだが、遠い昔のことかも。
「くさや」の語源は「臭魚」、もしくは「臭や」だろう。立て塩に使った塩水を繰り返し繰り返し、使っていたために生まれた独特の干ものである。その繰り返しの中で生まれたのがクサヤ菌である。この独特の匂いと味はこのクサヤ菌によるところが大きい。
主な原料は、和名にも「くさや」がつくクサヤモロ、ハマトビウオ、などなどだ。伊豆諸島の新島を初めとする伊豆諸島で作られていた。静岡県伊豆半島などでも作られていたというが今はどうなのだろう。なんとか一度、新島に「くさや」を調べに行きたいが果たせていない。