北海道根室市、夏のオオノガイ漁と干もの
1年にたった2日だけのオオノガイ漁
根室周辺(根室市根室湾、風蓮湖、春国岱)の広大な浅瀬では貝類の手掘り漁が行われている。少し沖では桁引もある。
中でも貝類は多彩で、アサリ、バカガイ、「ほっきがい(ウバガイ)」がとれる。これにやや沖のホタテガイ桁引のホタテガイを加えると計4種も揚がる。食用二枚貝は1種類の漁獲量が多く、地域内で揚がる種類が少ないのが一般的なので、根室周辺は国内でも希有な二枚貝多種類漁獲地域だ。
この二枚貝が豊富な根室市の干潟で夏、5月から7月、大潮の干潮時に行われているのがオオノガイ漁である。たった2日間だけの、最干潮の前後4時間ほどの漁である。
根室湾中部漁業協同組合の組合員によって漁が行われているが、組合員1軒につき2名(鍬2本)までが漁を行える。
オオノガイは干潟の表面から30cm前後の深さのところにいる。漁は手掘りで、歯が3本の備中鍬で掘り進む。ひたすら前に少しずつ掘り進んでいく。
漁獲していいのは殻長70㎜以上で、小さなものは埋め戻される。それにしても30㎝も鍬で掘り進み、大型をバスケットに入れ、小型を埋め戻すのは重労働である。
家族が多い家では2本の鍬を交代交代に掘る。1人だけだと、たった1人で4時間掘り続けることになる。
この漁業規制が末永いオオノガイ漁の保証になるのだと思われる。それにしても根室湾中部漁業協同組合の取り組みは素晴らしい。
このとったオオノガイの水管は干ものになり、その他の部分は自家消費される
参考/『オオノガイ資源を守るために-オオガイ生態調査に取り組んで-』(根室湾中部漁業協同組合貝手掘部会 オオノガイ研究グループ 木下秀雄)
オオノガイという二枚貝について
北海道から九州までの汽水域、干潟などに生息している。殻長(貝殻のいちばん長い部分の長さ)12cm前後になる大型の二枚貝である。
漢字にすると「大野貝」で、大きな貝という意味。根室周辺ではそのものずばり、「大貝(おおがい)」である。干潟にいる二枚貝の中でも最大級で干潟歩きをしていても目立つ存在である。日本各地に呼び名が多いのも、身近な二枚貝でも突出して大きいからだろう。
泥にもぐり長い水管を出して水中の懸濁物(水中に混ざり込んだ固形物)を取り込み、栄養分やタンパク質などを吸収して大きくなる。
縄文時代から食用とされてきており、北海道温根沼周辺台地の貝塚からもたくさんの貝殻が見つかっている。温根沼周辺貝塚から出土する貝殻の大きさは7㎝から10㎝と大きく、このころから小さな個体はとらない、資源の保全に努めていた模様だ。
実際、根室市周辺でも一時は漁獲量が激減し、以後、資源の保護に努めて現在に至る。漁獲できる殻長70mmに達するには6年もかかるという。
国内すべての汽水域干潟で見られるが、漁獲圧がないにも関わらず、東京湾など日本各地で近年、希少な存在になりつつある。
東京湾などではほんの1990年代までは普通にとれていたが、あくまでも混獲物で食用とはしなかった。食べられるがまずいと考えられていたようだ。
縄文時代などはともかく、じょじょに食用とする地域は限られてきたようだ。
食用としていたことがはっきりしているのは、京都府宮津市である。市内、阿蘇海で漁が行われていて、干ものに加工されていたらしい。ただ水質の悪化などにより、激減し、現在では漁も加工も行われていない。
2024年現在、実際に漁業が行われ、加工販売しているのは根室市のみではないかと考えている。
参考/『北海道博物館協会学芸職員部会 湿地の文化的価値【コラムリレー第2回】』(根室市歴史と自然の資料館 猪熊樹人)、『オオノガイ資源を守るために-オオガイ生態調査に取り組んで-』(根室湾中部漁業協同組合貝手掘部会 オオノガイ研究グループ 木下秀雄)
漁師さんたちが自ら作るオオノガイの干もの
根室湾中部漁業協同組合は干潟で掘り出した、オオノガイは自宅に持ち帰る。
その日の内に、処理をする。
これを剥き身にする。
剥き身にした中から内臓、足を取り除き、水管と外套膜縁だけにする。
水管を開いて表面の皮膜をていねいに取り除く。この皮膜に苦味があるのだ。
協力/石垣さんとご家族(根室市)