202405/02掲載

硬骨魚類のアニサキス

スケトウダラのアニサキス


アニサキスはときとして人体に害を及ぼし、アレルギーを引きおこし重症となる。
一般にアニサキスと呼ばれているが、アニサキスとは、アニサキス科の何種類かの回虫である。正確には線形動物門双腺綱回虫目回虫上科アニサキス亜科アニサキス属(Anisakis )とシュードテラノーバ属(Pseudoterranova)の回虫をさす。
最終宿主は鯨類(イルカなど)で、この体内で成虫になり、産卵する。
海獣類、鯨類の排泄物と一緒に卵が体外に出て、孵化して孵化仔虫になる。それをオキアミなど動物プランクトンが摂取、動物プランクトンを魚類が食べることで今度は魚の内臓内に寄生する。その魚を鯨類が食べると、体内で成虫となり成熟、産卵する。
この寄生された魚を生でヒトが食べることでアニサキス症になる。ただしヒトは最終宿主(成虫になって産卵できる環境を持つ生物)ではないので、取り込んでもアニサキスは長く生きていけない。

肝臓から掘り出すとゆっくり動く


刺身などで食べて、胃や腸に入ると希に激しい腹痛、吐き気に襲われる。
またアレルギーによって引きおこされるアニサキス症もあるとされている。
ちなみに、スケトウダラでもとれたばかりだと筋肉内には入らないという漁師さんがいる。またインフルエンザなどと比べると発症率は非常に低いのではないかと思うがいかがだろう。
アニサキス症には摂取してヒトの体に取り込まれた幼虫が短期間人体の中で生存できる。このとき消化器官に移行して機械的な刺激(消化器官の壁を穿つ)や異物反応を示して発症する。症状が胃に出たものを胃アニサキス症、腸にでたものを腸アニサキス症という。
またアレルギー性のアニサキス症がある。免疫を持ったヒトが再度、アニサキス類を取り込んだときに起こる。
アレルギー性のアニサキス症は2つのパターンがある。
最初は生きているアニサキスを取り込み感作[アレルゲンを取り込むとこれを排除しようとして免疫機能が働き、「IgE抗体(アイイージー抗体)」が体内で作られる]してアニサキス症と診断される。次ぎに死んだアニサキスでも引きおこされる場合。
最初の感作は死んだアニサキスを取り込むことで起こる。その後、生きているアニサキスによってアレルギーが発症する。
また症状がなくても免疫を調べると、アニサキス症に罹病した経験を持つか否かがわかる。

スケトウダラは生で食べることはない


写真はスケトウダラなのでアニサキス属の幼虫である可能性が高い。
魚類を見る限り、多くの種で消化管や肝臓についているもので、筋肉内で見つかることはあまりない。
スケトウダラも多くの個体にアニサキスが見られるが、ほとんど総てが内臓周辺である。
腹部の筋肉内に入っている個体も見ているが希。
スケトウダラを生で食べることはまずないので、通常に食べている限り感染の可能性はない。
対策としては加熱処理して食べるか、−20℃以下の状態で24時間凍らせることとしている。
個人的な意見ではあるが、アニサキス類の筋肉への移行は鮮度と関係がある。
本来アニサキスがいたい場所は内臓なのであって、鮮度が落ちるに伴い仕方なく筋肉に移行するのではないかと考えている。
参考文献/『魚類とアニサキス 日本水産学会編』(日本水産学会編集 恒星社厚生閣)、『魚介類に寄生する生物』(長澤和也 成山堂書店)
■情報が集まり次第改訂していきます

マサバのアニサキス


1kg級、千葉県産マサバをすりつぶすようにして、アニサキスを探してみた。
マサバは生で食べることが多くなってきている。例えばしめさばにしてもアニサキスが筋肉内にいたら危険である。
アニサキス科にとって居心地のいい場所は内臓であって、筋肉内ではない。
長年見ているがアニサキスが筋肉内にいることは、非常に希なのではないかと思っている。

マサバの内臓内にはいたが


今回は波長365mmのアニサキスライトを使ってみた。
水揚げ後、内臓から腐敗が起こり、苦し紛れに筋肉内に移行するのではないか、と思っているがいかがだろう。
もちろんアレルギー性のアニサキス症の場合、死んだアニサキス科を食べても問題が出てしまう可能性がある。
筋肉は腹部・背部など、筋肉をすりつぶすようにして探したが、この個体では見つからなかった。
内臓内には、見つけられただけでも5個体いたことから考えると、筋肉内にいなかったことは不思議である。
「高知県から青森県までの太平洋側のサバは8割以上が Anisakis simplex sensu stricto アニサキス・シンプレックス・センス・ストリクト(シンプレックス)が寄生している」(東京都健康安全研究センター)。
とのことで、写真はシンプレックスである可能性が高い。

このコラムに関係する種

スケトウダラのサムネイル写真
スケトウダラPollack海水魚。水深0-2000mの表層・中層域。北海道全沿岸、青森県〜和歌山県白浜の太平洋沿岸、青森県〜山口県の日本海沿岸。・・・・
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マサバのサムネイル写真
マサバChub mackerel海水魚。日本列島近海。水深2メートル前後の浅場から水深100メートル以深まで。北海道オホーツク海沿岸〜九州南岸の日本海・・・・
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