202403/05掲載

江戸前の閂はやたらにうまし!

確かに閂、まるで角材のよう

サヨリ

八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に神奈川県横須賀東部漁協からサヨリがきていた。めったにないサイズなので、思わず記念に1尾買う。
横須賀東部漁協は東京湾に面しており、対岸は千葉県の富津岬。東京湾内湾と湾口の境にある。どちらにせよ、ここで水揚げされる魚はすべて江戸前である。
サヨリはダツ目(トビウオやダツ、サンマなど)の仲間で身体が細長く、下顎が嘴状に伸びているのが特徴である。
琉球列島や小笠原をのぞく日本全国の内湾の表層域に生息している。群れで泳ぎながら浮かんでいる昆虫や甲殻類、海藻などを食べて暮らしている。表層を二艘の船で網で曳いてとったり、刺網などでとる。
余談になりかねないが、サヨリの漢字、鱵はあきらかに間違い。国字である針魚、もしくは細魚の方が正しい。少し難しい話になるが、鱵は中国明時代の漢字で、江戸時代には明の本草綱目という本草学の本が、漢字などでもお手本とされていたので、こちらを正字とした。ただ中国の鱵は汽水域にいる種のことなので、国内にもいる汽水域だけで一生を終えるクルメサヨリを指す。
また、細長くて銀色でちょっとお口がツンツンしているところが、サンマと似ているため、全国的にサンマ・サヨリの呼び名が混同して交錯している。中部地方でサンマを「さより」という。
さて、サヨリには釣り師が憧れる「閂(かんぬき)」というのがある。閂は日本家屋の門や戸を閉じて鍵の役割をする角材のことである。全長35cm前後以上で、まるで閂に使えそうな大きさという意味だ。船釣りではなく陸から釣りあげることが一般的なサヨリとしては、最大級で最近では幻の存在といってもいいだろう。
この「閂」が、東京湾から正箱(発泡の箱に2㎏以上で入れられた状態)でくるなんて、横須賀東部漁協って凄いな、と思う。舵丸水産のクマゴロウが「バキバキででっかくて凄いよな」というのもうなずける。
ちなみにサヨリは大きければ大きいほど高い。当然、立派な値段だけど、例えば全長30cmくらいを2尾と、この「閂」1尾では、歩留まりからすると後者が断然いいのである。個人的には「閂」はお買い得といいたい。

身は清らかだけど腹は真っ黒ってのがいいのだ

サヨリの腹黒

サヨリの刺身は簡単である。
頭を落として内臓を取り去る。
このとき必ず見て欲しいのがサヨリの腹黒さである。
ここまで真っ正直に腹黒いのは見事である。

サヨリの刺身の魅力は美しさにあり

サヨリの刺身

後は三枚に下ろして腹骨・血合い骨を取り去り、皮を引く。
刺身はお好みのひき方で。
血合いが輝くような銀色の下に隠れているが、これがそれなりに美しいのである。
口に入れると瞬間に甘いと感じるのはなぜだろう。もちろん糖質の甘さではなくうま味成分が強いためだと思っている。
本マグロやマイワシの甘さは、脂の口溶け感からくるものだが、まったく別種の甘さである。
少しだけ背の青い魚の粗野な部分があるのも魅力的だ。
脂よりも濃厚なうま味が持ち味の魚である。
今回はこれで「刺身定食」とした。

このコラムに関係する種

サヨリのサムネイル写真
サヨリJapanese halfbeak海水魚。沿岸の表層。北海道オホーツク海沿岸、北海道〜九州南岸までの日本海・東シナ海沿岸、北海道〜土佐湾までの太平洋沿岸・・・・
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