202401/25掲載

オニヒゲはやたらにうまし魚である

姿はめちゃくちゃでござりまする


1月19日の小田原魚市場でオニヒゲを大発見した。ソコダラ科の魚で、相模湾や駿河湾など目の前すぐに深海が迫る海域に普通に見られる魚である。
ソコダラ科自体がほとんど知られていない言語なので、「ソコダラ科の魚は非常にうまい」、といってもわかる人は希だと思う。「底」は海底というよりも深海という意味で、「たら」は大きな意味でタラの仲間ということになる。
少し詳しく説明すると、この仲間は世界中の深海にいるようで、みな妖怪を思わせる不気味な姿をしている。口の下に1本のにょろりとしたヒゲを生やしているのも特徴である。
広い意味でのタラの仲間(タラ目)で、ソコダラ科にはいくつかの属(グループ)があり、中でもトウジン属(トウジンの仲間と言い換えてもいいだろう)がいちばん味がよいと思っている。
このトウジンの仲間で大型になるのはテナガダラ、オニヒゲ、トウジン、ミヤコヒゲ、ムスジソコダラであるが、この5種は流通上でもなんどか見ている。
中でも、もっとも量的に多いのがオニヒゲだと思われる。北海道、岩手県、宮城県の底曳き網でまとまってとれるらしく、多くがすり身になり、希に鮮魚としても流通する。
小田原魚市場にぽつりと1個体だけ置かれてあったのは、船宿もやっている坂口丸さんが、オシツケ狙いのときに一緒に釣り上げたものだ。
トウジンかな? と思って頭部裏側をなでなでしてみたら鱗がない、のでオニヒゲだと判明する。ちなみに相模湾で、「ちょっぴー」というのはトウジンとオニヒゲの2種の混称だと思っている。
市場では値のつかない魚ではあるが、オニヒゲは魚類の中でも屈指のウマシ魚である。しかも東北からくるものと違って、小田原のものは釣りものなので鮮度抜群なのである。

実に端正な刺身の味わい


帰宅後、すぐに撮影して、内臓だけ除去しておく。今回の個体は脂がのっていた。
これを初日には刺身、あぶり(焼霜造り)にする。
刺身がうまいことは何度も経験している。とりたてて特徴がない味ではあるが、ほどよくうま味成分からくる甘味があり、ゆでた肝をとかした肝醤油で食べるとたまらない。

少しやんちゃなくらいだけどうまし


皮目をあぶって造ってみると、こちらもすごくうまいというか、刺身と並べて迷い箸になるほどにうまい。
皮目を焼くと、皮下の脂とうま味が液化して一体化する。あぶって氷でしめて、皮を落ち着かせるために1時間ほど冷蔵庫で寝かせても、液化したときに混合されたうま味、脂の味がそのまま楽しめる。

鍋の定番魚にしたいくらいに鍋向き


翌日はあっさりと水炊きにしてみた。
まずは昆布だしをとり、酒と塩で味つけをして鍋汁とする。
オニヒゲは適当に切り、湯通しして冷水に落として粗熱をとる、とともに残った鱗とぬめりを流す。
水分をよくきり、野菜などと煮ながら食べる。
同じタラ目ながら、タラ科のマダラよりも身がしっかりして煮崩れしにくい。
身自体にもうま味があり、口の中に入れると脆弱にくずれてくれる。
いっくら食べても、食べ飽きぬ味で、汁と一緒に食べたので鍋後の楽しみはない。
熱を通すなら底曳き網のものでもいいが、刺身などを考えると釣りものがもっと増えるとありがたい、と思っている。
またフレンチに向いている魚である。売り方もいろいろ考えて見るべきではないか。

このコラムに関係する種

オニヒゲのサムネイル写真
オニヒゲOgre grenadier海水生。水深260メートル〜930メートル前後。北海道〜土佐湾の太平洋沿岸、東シナ海北東部斜面域、九州。〜パラオ海嶺・・・・
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