八月美味なるアイゴの塩焼き
丸のまま焼いただけがいちばんうまかった
宇井縫蔵の『紀州魚譜』にもある「八九月頗美味」なアイゴの塩焼きを作った。
水洗いして内臓をとって焼くべきか、丸のまま焼くべきか、悩んだ。
産卵期のアイゴは比較的臭味がなく、しかも今回のものは扱いがとてもよかった。
高知県大月町道の駅で出会った方の教え通り、丸のまま何もしないで焼いてみた。
水洗いして頭部を落とした塩焼きは何度も作っているが、丸のまま焼くのは冒険に思えた。
真子のほくほくした甘さ以上にうまいゼンマイ
焼き上がりに濃厚なうま味を含んだような香りがした。
皮がぱりっとしてとても香ばしい。
しかも表面と皮下には独特の風味のある脂がまだ半液化したままである。
この脂、頗るうまし、だ。
中の身は適度に締まり、身離れがよかった。
身のおいしさにも驚いたが、真子がほくほくと甘味がある。
真子に塩がきいているとは思えないのに塩気を感じるのが不思議ならない。
びっくりしたのはゼンマイと呼ばれる消化器(たぶん腸管)が卵巣に押されて小さく、臭味がわずかしかしない。
うまいうまいと聞いていた、ゼンマイの真のうまさを知った気がする。
余談だが、頭部・内臓抜きで焼いてもみた。
そちらも美味ではあったが、上質な産卵期のアイゴは丸のまま塩焼きに限るかも。
ちょっと小さめだけど、こんな上質なアイゴはめったに来ない
八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に大分県佐伯市、丸昌水産からアイゴが来ていた。アイゴはいつ来ても捨て値である。
1箱持っていけ、と言われたがさすがにそれは辞退して7個体持ち帰ってきた。
触っただけで上物とわかるアイゴだった。
ちなみにアイゴと言えば臭い、臭いといいすぎである。
食べてもいない人間に限って臭いといい、テレビなどでも最初に臭いという。
こんな前口上があったらだれも食べる気がしないだろう。
最近、流通がよくなって根っから臭味のある個体以外は、臭味は皆無なのである。
しかも丸昌水産は全国的にみてもすぐれた荷主(出荷元)なのだ。この荷主にハズレなし、という仲卸も少なくない。
今回のものは比較的小振りで23cm・300g前後であった。
以上は前回書いた。
これを流水でざっと洗い。
水分をよくきり、振り塩をする。
脂が乗っているので焦がさないように注意深く焼き上げる。