鹿児島、うんまかシマアジ
あまり大きすぎるとおいしくないのがシマアジである
鹿児島県鹿児島市、田中水産さんにクリスマスプレゼントをいただいた。もちろんケーキではなく、チキンでもない。もっと遙かに高級でうんまかもん、シマアジでごわす。
シマアジも北上傾向にあるが、暖流の申し子のような魚で水揚げ量からすると房総半島以南に多い。鹿児島はその北上する暖流が東西に分かれる分岐点でもあるのだ。岩礁域に多く、釣り場では浅場の根(岩礁)まわりを狙うことが多い。
余談だが。
明治時代、生物分類が国内に導入されたとき、生き物の国内で使うための言語(標準和名)を早急に決める必要があった。江戸時代以前の古い書籍からと、身近なところから集めた名前の中から科学的に使える言語を選んだのだ。まるで、雲をつかむような、血のにじむような作業だったに違いない。
このとき様々な混乱と、すでにあった学名(このときすでに国内の多くの生物には学名がついていた)とのとり違えが生まれた。ちなみに当時の印刷技術では訂正が非常に難しかった。集めた後も様々な段階で間違いが起こる。ゴキカブリがゴキブリになったことなどいい例である。
印刷には見当、桁つけ(ボクが印刷系をやっていたとき、活版はほんの少ししかやっていなかったので曖昧だけど)、面つけなど地道な作業が必要だった。よほどのことがないと訂正がきかなかった。この印刷上のミス、校正ミスなども分類学のキズとなって残っている。
魚類の名前でもわかりやすいものと、わかりにくいものとがあったが、シマアジなどは非常にわかりやすいものだった。江戸時代本草学の時代にもある言語で、採取した東京での意味合いは明らかに島(伊豆諸島)から来たアジだから島鯵である。不思議なことに田中茂穂はこれを縞鯵としている。ここには紀州魚譜の宇井縫蔵との関わりが感じられ、田中茂穂の人となりが偲ばれる。魚の名前からも魚類学の歴史がだどれるのである。
ちなみに鹿児島県には体高のあるシマアジを含むアジ類をエバ、カマジ、カツンなど複数の呼び名がある。
冬なのに脂がぎらぎらとしている
シマアジの刺身
さて、クリスマスプレゼントの、特上のシマアジはすでに水洗いを終えたものだ。風邪気味なので少々甘えてしまう。これなど返す返すもありがとうございました、なのだ。
体長37cmは、シマアジのベストサイズであり、体に丸味がある。三枚に下ろす包丁が重いのは言わずもがな脂が乗っているからだ。
シマアジの旬は晩春から秋だと思っていたが、近年は真冬にも脂がのっている個体に出合っている。これも温暖化のためかも知れないが、旬が不明確になりつつあることだけは確かだ。
少し切り放って味見したが、言うに言われる味である。
アジ科の頂点とはいえ、当たり外れがないわけではない。今回の個体など、まさに当たりの中の当たりである。
すなおにまずは刺身と焼霜造りで夕飯のおかずとした。
酒が飲めないのは残念ではあるが、吉田健一が述べるがごとく、うまいものは酒の友とするよりも飯の友としてこそわかる。
豊かすぎるうま味と脂の口溶け感からくる甘味が、米の糖分と混ざり合って、測りきれない味となっている。