ムツ

ムツの形態写真一覧 (スワイプで別写真表示)
SL 50cm 以上になる。目が大きく、背鰭は2つ。全体に褐色でやや側扁、体高が低い。幼魚期から姿が変わらない。[黒い個体で鰓などの鰓耙を見ないとクロムツと区別が付かない個体。30cm SL・重さ434g]
SL 50cm 以上になる。目が大きく、背鰭は2つ。全体に褐色でやや側扁、体高が低い。幼魚期から姿が変わらない。[17.5cm SL・重さ112g]
SL 50cm 以上になる。目が大きく、背鰭は2つ。全体に褐色でやや側扁、体高が低い。幼魚期から姿が変わらない。[鹿児島県産]
第1鰓弓の鰓耙数は上2-5、下12-17

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珍魚度・珍しさ
いつでも手に入る
魚貝の物知り度 ★★★★
知っていたら達人級
食べ物としての重要度 ★★★
一般的(流通量は普通)
味の評価度 ★★★★★
究極の美味
分類
顎口上綱硬骨魚綱条鰭亜綱新鰭区棘鰭上目スズキ系スズキ目スズキ亜目ムツ科ムツ属
外国名
Gnomefish 牛眼鯥、牛眼鯥、牛目仔、牛眼青鯥
学名
Scombrops boops (Houttuyn, 1782)
漢字・学名由来

漢字 鯥 Mutu
由来・語源 脂っこいことを「むつっこい」、「むつこい」、「むっちり」などというに由来。脂ののっている魚の意味。
古くはムツ科はムツ一種としていた。『日本産魚類検索』(岡田彌一郎、松原喜代松 三省堂 初版1936、第二版1943)と『魚類の形態と検索』(松原喜代松 岩崎書店 1955)にはクロムツ/Scombrops gilberti (Jordan and Snyder, 1901)はムツの成魚で学名はシノニムだとしている。このムツ、クロムツが別種となったのは1970年代くらいからだと思う。このクロムツ、ムツ2種の時代も終わろうとしている。

Houttuyn
Maarten Houttuyn (Martinus Houttuijn マールテン・ホッタイン 1720-1798年)。オランダの医師、博物学者。リンネの継承者。ドクダミなどを記載。
地方名・市場名

概要

生息域

海水魚。水深200〜700メートルの岩場。
北海道〜九州南岸の太平洋沿岸、北海道〜九州南岸の日本海・東シナ海、鳥島。九州〜パラオ海嶺、東シナ海大陸棚縁辺域、台湾。
[山形県鼠ヶ関]

生態

■ 産卵期は10月から3月。
■ 稚魚、幼魚は磯場や浅い湾内にいる。
■ 成魚は水深200メートルから700メートル。

ムツの3型
田中茂穂は〈神奈川県三崎ではツノクチ、メダカ、キンムツの三型を分ち〉とある。
ツノクチ 口が尖って、頭が小さく軆に平みがあって丸い。ツノクチとメダカは同様に黒色であるがツノクチの方が稍や大きく、数も多い。此両者(ツノクチ、メダカ)はほゞ同一場所に生息しているが、メダカの方がやや深所に生息する。
メダカ 口が圓く、頭大きく、軆は細長く、目が大きい。ツノクチとメダカは同様に黒色であるがツノクチの方が稍や大きく、数も多い。此両者(ツノクチ、メダカ)はほゞ同一場所に生息しているが、メダカの方がやや深所に生息する。
キンムツ 軆形メダカに似て、色は白みがかった銀色を帯び、味は良好で且つ最も浅所に生息するが、数量は多くない。
『図説有用魚類千種 正続』(田中茂穂・阿部宗明 森北出版 1955年、1957年)

ムツ、クロムツ親子説
松原喜代松は〈クロムツは本種(ムツ)の成魚。成長と共に、体は青黒色となり、鱗は硬くなり、離脱し難くなり、深海へうつる〉。
『魚類の形態と検索』(松原喜代松 岩崎書店 1955)

基本情報

北海道から九州の日本各地で水揚げのある深海魚である。深海にいる成魚は今や高級魚、もしくは超高級魚だ。浅い岩礁域にいるので「オンシラズ」などと呼ばれる若い個体(小型)も人気が高くそこそこの値がつく。また、流通上は本種も「クロムツ」、「黒ムツ」として流通することが多いが、もちろんムツであってクロムツではない。
関東では古くより煮つけ用の魚として人気が高かった。ちょっと贅沢ではあるが一般家庭でも手の届くものだったが、近年高値で縁遠い魚となっている。余談になるがそこで登場したのが国内でも揚がるが主にアメリカやロシアから輸入しているギンダラや、「銀ムツ」と呼ばれていたメロ(マゼランアイナメ)、カーディナルフィッシュだ。
むつっこい(脂っこい)魚であるというのが語源となっているように、脂の強い身は非常に美味である。またそれ以上に珍重されるのが「むつ子」、すなわち卵巣である。
古くは煮つけ用の魚とされていたが、鮮度管理ができるようになって刺身用としての需要も高くなっている。
珍魚度 普通の食用魚。若い個体は消費地でもときどき見かける。大型は高価だが手に入れるのはたやすい。

水産基本情報

市場での評価 関東では人気が高いので定番的な高級魚。大型は超高級魚。小型はやや高い。小さくても安くはない。
漁法 釣り、定置網
産地 鹿児島県、長崎県、高知県、東京都、神奈川県、静岡県など

選び方・食べ方・その他

選び方

触って張りのあるもの。鰓が赤いもので、身にボリューム感のあるもの。

味わい

旬は晩春から冬。産卵後の冬から春の短い間以外は味があまり落ちない。小さくても脂がのっている。
鱗は薄くて取りやすい。皮はやや厚くて硬め。骨は柔らかい。
透明感のある白身だが、脂がのると白濁する。熱を通しても硬く縮まない。

栄養

危険性など

食べ方・料理法・作り方

ムツの料理・調理法・食べ方/焼く(塩焼き)、煮る(煮つけ、鍋)、揚げる(フライ、唐揚げ)、生食(刺身、焼霜造り)、汁(みそ汁)
ムツの塩焼き これも本種の定番的な料理だ。古くは庶民にとってちょっとだけ贅沢でしかなかったものが、現在ではとても贅沢なものとなっている。二枚に下ろして骨つきの方を適当に切り、1時間以上寝かせてじっくり焼き上げたもの。皮下、筋肉の層の間に液状の脂を感じてとてもふっくらと柔らかい。写真は30cm上の兵庫県日本海側但馬で揚がったものだが無類のうまさだった。

小ムツの塩焼き 神奈川県などで「おん知らず」と呼ばれている体長20cm以下でもうまいのがムツのよさである。水洗いして振り塩をして1時間程度置く。これを焼き上げる。小さくても脂がのっており、小骨が弱く食べやすい。比較的安いのに御馳走となる。
ムツのあら煮 身(体幹部分)よりも頭部やかま、中骨、肝、胃袋などのあらがうまい気がする。大型などを下ろしたらカマの部分を集めて置く。食べやすい大きさに切り、ゆどうしし、残った鱗やぬめりを流す。水分をよくきりお好みの味つけで煮る。写真は酒・砂糖・醤油・水、しょうがだ。
ムツの煮つけ もっとも基本的な料理法。昭和30年(1960年代前半)代くらいまでは、それほど高くなかったので食堂でも食べられたという。今や超高級な一品となっている。煮ても硬くならずふんわりと柔らかい。皮もしっとりとゼラチン質を感じてうまい。食べた後の煮汁で素麺を食べてもいいし、骨湯にしてもいい。
ムツの鍋 古くから大型のムツが揚がった関東では、鍋材料としても重要だ。ここではたっぷりの野菜、豆腐などと合わせて煮ながら食べた。ムツは水洗いして適当に切る。湯通しして冷水に落とし、残った鱗やぬめりを流す。水分をよくきり、昆布だし・酒・塩の地で野菜などと煮ながら食べる。
子ムツの煮つけ 浅場にいる子ムツは、見た目以上に脂がのっている。親ほどは高価ではないので今でも庶民的な味だ。水洗いして肝と一緒に湯通しする。冷水に落として残った鱗とぬめりを流す。これを酒・砂糖・しょうゆ味でこってり甘辛に煮たもの。身離れがよく脂を感じる割りに後味がいい。手頃な値段で贅沢な味だ。
ムツのフライ 脂の強い魚なので油を使った料理には向かないのではないかと考えていた。やってみるにできるだけ脂がのった上等なものを使ってみた。水洗いして三枚に下ろす。腹骨と血合い骨を取り、皮付きのまま塩コショウする。小麦粉をまぶし、溶き卵に潜らせパン粉をつけて強火でさっと揚げる。
脂分は筋肉の層の間で溶けてしまうが、ちゃんと皮周辺に残っている。身からも染み出してくるが口に入れると、実にうま味豊かな液体と化す。パン粉のさくさく感と、この筋肉の層から来る甘味とあいまって頗る付きにうまい。うまさ名状しがたい。

ムツのフィッシュ&ティップス 小ムツでも成魚でもなんでもいい。食べやすい大きさに切り、塩コショウする。小麦粉をまぶして衣(油・小麦粉・水)をつけて強火でかりっと揚げる。衣はぱりっと落ちがするくらい硬く、中はババロアを思わせるくらいに柔らかい。豊潤かつ香ばしさで最上級のうまさだ。
ムツ子の唐揚げ 定置網などで揚がった体長10cm前後を「ムツ子」という。鱗もなにも取らないで鰓を、手で引き取るようにして内臓を取る。水分をよくきり、片栗粉をまぶしてじっくりと二度揚げする。さくっとして、身に独特のこくというかうま味がある。実に味わい深い。
梅雨時のムツの刺身 神奈川県小田原市、小田原魚市場で揚がった体長32cmの刺身だ。蒸し暑く感じ始めたときなので、まさかムツを買うなんて思わなかった。でも目の前にあるのは見ただけでトップクラスとわかるムツである。触る必要もない。ムツの旬はわかりにくい。春の不安定な時期でもこの30cm前後は悪くないのだ。
刺身にすると非常に柔らかい。ただ嚙むと抵抗感を感じるくらいの食感がある。皮下も身にも均質に脂が混在しているのか口溶け感からくる甘味がすごい。背の部分6切れで十二分という重たい味ながら、決して後味が重いわけではない。

ムツの刺身 脂は皮下に層を作り、筋肉にも混在して白濁する。当然、新しくても身は柔らかく、下にねっとりする。ここではやや大型を水洗いして皮を引いて、刺身にしてみた。口の中に入れると表面の脂が溶けて、トロっとして甘味が強い。しかも酸味が少なく魚らしい味わいも楽しめる。
小ムツの刺身 神奈川県小田原魚市場で大型容器に入っていた、食用として出回らない全長15cm以下のサイズを使っている。水洗いして三枚に下ろし、腹骨・血合い骨を取る。皮を引いて水分をよくきり、刺身状に切る。このサイズは脂よりも味の豊かさで食べるものだ。うま味が豊かなわりにあっさりしている。もの足りなければ皮目をあぶってもいい。
小ムツの焼き切り(焼霜造り) 小振りのものを水洗いして三枚に下ろして、腹鰭を取り、血合い骨を抜く。皮目をあぶって、急速冷凍もしくは氷水に落として粗熱をとり皮を落ち着かせる。これを刺身状に切ったもの皮下には液体を感じてこくがあり、彩り豊かな味わいがする。豪華な味。
ムツの皮霜造り 2月、相模湾島周りのムツなので、間違いなしだと思って買ったら、期待したほど脂がのっていなかった。周年うまい魚なので、それでも刺身は絶品だった。気分をかえて皮霜造りにする。三枚に下ろし、腹骨と血合い骨をとる。皮目に湯を掛けて氷水に落として粗熱を取る。冷蔵庫で皮目を落ち着かせて刺身状に切る。
小ムツの漬け 25cmほどのやや大きめの小ムツである。これを漬けにする。三枚に下ろして腹骨・血合い骨を取る。刺身状に切り、少量のみりんを落とした醤油に漬け込む。こうすると翌日も食べられる。これを漬けとして食べて、翌日は茶漬けにする。
小ムツのみそ汁 小ムツは水洗いして適当に切る。大型はあらを利用する。これらを湯通しして冷水に落として残った鱗やぬめりを流す。これを水から煮出してみそを溶く。昆布だしで煮だしてもいいが、無駄な気がする。実に濃厚、かつ後味のいい汁になる。ご飯に合う。

好んで食べる地域・名物料理

フライ 鎌倉市腰越 魚店の総菜。
もつの煮つけ 定置網などで揚がる小型を使う。鱗を取り、頭部を落として水洗い。鍋にしょうゆとしょうが、水を加えて味見しながらわかす。少ししょうゆ辛いくらいのところに水洗いした「もつ(ムツ)」を落とし入れてあっさりと煮る。魚本来の呈味成分からくる甘味が際立つ。ほどよく脂ものっていて絶品である。[徳島県海部郡海陽町宍喰、宍喰漁協定置網]
いを味噌(ムツの魚味噌) 長崎県平戸市度島で作られている。ムツやクサビ(アカササノハベラもしくはササノハベラ属)を水洗いして素焼きにする。ほぐして硬い骨(中骨)を取りみそと混ぜる。これでご飯を食べたり、お握りの具にも入れたりする。[福畑光敏さん]

加工品・名産品


ムツの丸干し 静岡県沼津市で作られた「親知らず(ムツの幼魚)」の干もの。身に強いうま味があって非常に美味。

釣り情報

■ 防波堤など陸からは稚魚や幼魚をねらう。これは夜釣りで、電気浮きのサビキ釣り。面白いことに都会からの釣り師よりも海沿いに住む地元の人たちにファンが多い。
■ 成魚は水深200〜300メートルを胴つき仕掛けか天秤しかけ、餌はイカの短冊でねらう。

歴史・ことわざなど

魚鑑の「ろくのうを」 〈仙台にろくのうをという、中略、紫黒(さいひろ)にして頭眼大いなり、尾に岐(また)なく、脂多しといえとも、味ひ淡し、春月多し以下略〉とある。「ろくのうを(ろくのうお)」は、仙台に居城を置く、伊達氏が14代、伊達稙宗以来、陸奥守護(陸奥の守)であったために、「むつ」を避けて「ろく」としたとされている。
泥むつ 鹿児島県にあがる非常に脂ののった大形のムツ。非常に高価だが、魚類中味は最高峰。

地方名・市場名

クロノド
サイズ / 時期若魚 参考山下正晶さん、聞取 場所兵庫県但馬柴山・香住 
ロクノウオ
備考〈仙臺でロクノウオと云うのは藩主伊達家が陸奥守であったので、是を遠慮したと傳えられてゐる〉田中茂穂。 参考文献、『図説有用魚類千種 正続』(田中茂穂・阿部宗明 森北出版 1955年、1957年) 場所宮城県仙台 
カラス
場所富山県黒部市 
モツゴ[モツ子]
サイズ / 時期若魚 備考浅場で定置網にはいる小型のもの。 参考長尾桂一郎さん 場所徳島県海部郡海陽町宍喰 
ムツ
参考文献、『種子島の釣魚図鑑』(鏑木紘一 たましだ舎 2016年) 場所東京都、神奈川県江ノ島、山口県下関、鹿児島県種子島 
クロッポ
参考『種子島の釣魚図鑑』(鏑木紘一 たましだ舎 2016年) 場所鹿児島県種子島 
アブラムツ[脂ムツ]
その他特に脂ののったもの。 場所鹿児島県鹿児島市 
オンシラズ
備考子供は浅い場所に、親は深い場所に、ともに暮らさないので「オンシラズ」。 参考文献 場所神奈川県横浜 
ドロムツ[泥ムツ]
備考特に脂ののったもの。 場所鹿児島県鹿児島市 
モツ
場所徳島県海部郡海陽町『宍喰漁業協同組合』、高知県東洋町甲浦・宿毛市田ノ浦すくも湾漁協 
オキムツ カツチャムツ カナムツ クジラトウシ クロマツ ツノクチ ムツゴロウ ムツメ メダカ メバリ モツ ロク
参考文献より。