標準和名ハマグリの話
国内の内湾に普通にいて、古代から親しまれてきたハマグリ

「ハマグリ(標準和名はカタカナ)を知らない人はいないでしょう?」と言う人はハマグリを知らないと思う。
一般的な「はまぐり(一般名称は「」内)」に関しての知識がある人も、歴史的にも有名な標準和名のハマグリを知っている人も、この国の1パーセントもいないと思う。
だいたいハマグリを食べたことがある人などほとんどいないはずだ。
ハマグリはアサリと同じマルスダレガイ科の二枚貝である。北海道南部から九州の内湾の干潟などに生息している。
内湾の歩いて行ける浅場にいるために国内では縄文時代(紀元前16000年前後〜紀元前1000年前後)にも盛んに食べられていた。
古くはたくさんとれたが、20世紀の後半には減少し始め、今や産地と言えるほどの産地は数えるほどしかない。
平安時代の「貝合」の二枚貝であり、雛祭など節句や祝い事にも欠かせない。
また「ぐれる」の語源ともなった。伊勢湾名物だったので、「その手は桑名の焼き蛤」なんて面白い俚諺もある。
だれでも知っていそうで、だれも知らないのがハマグリなのだ。
「はまぐり」はあるが、ハマグリは何処かに消えてしまった

それではすし店などで出てくる「はまぐり」はなんなの、と思われる人も多いはず。
あれはチョウセンハマグリ、シナハマグリという別種である可能性が高いのである。
チョウセンハマグリは内湾生のハマグリに対して外洋に面した砂地に生息している。「地はま(地はまぐり)」ともいうし、碁石を作るときの材料なので「碁石蛤」ともいう。
シナハマグリは雛祭りなどのときに小売店などに大量に並び、またすし屋などでも使われている。
もっと話を進めていくと、駅弁やお節料理などに使われている「はまぐり」は、東南アジアなどから送られてくるミスハマグリである。
冷凍輸入されているから安いから駅弁に使えるわけで、駅弁の「はまぐり」に和の情緒を感じるのは極めて変である。
標準和名のハマグリと「はまぐり」を見分けるのは至難の業なのだ。
いったいハマグリはどこにある? 東京でいえば高級な仲卸(豊洲などにある魚屋)のある市場とか、産地から直接取り寄せるほかない。
その産地が今は希少なのである。
海は埋め立てるための場所ではなく、汚染してもいい場所でもない

なぜこうなったのか? 海辺の乱開発と海をただのゴミ捨て場だと思っている今の行政や政治家のせいである。
東京ディズニーなど埋め立てでできたわけで、本来自然保護に徹していた、ウォルトディズニーが天国で怒っているじゃないのかね。
標準和名のハマグリは国内にしかいない。
この極端な減少と、絶滅を危惧しなければならないような状況を隠蔽するかのように輸入ものが大量に出回っている。
一度、輸入を全面的に禁止にしたらどうだろう。
今や世界中で海辺の乱開発が行われ、いまだに汚染が進んでいる。
そこに温暖化が追い打ちをかける。
ハマグリもいろんな「はまぐり」も全部いなくなる可能性もある。
その未来を早く知って置いた方がいい。
このままでは、〈あかりをつけましょぼんぼりに〉の、雛祭の「蛤の吸物」すら食べられないときが来るだろう。
[モデル/吉原努さん]