202408/30掲載

標準和名ハマグリの話

国内の内湾に普通にいて、古代から親しまれてきたハマグリ


「ハマグリ(標準和名はカタカナ)を知らない人はいないでしょう?」と言う人はハマグリを知らないと思う。
一般的な「はまぐり(一般名称は「」内)」も、標準和名のハマグリも、知っている人はこの国の1パーセントもいないと思う。
だいたいハマグリを食べたことがある人も1パーセント以下だと思う。

ハマグリはアサリと同じマルスダレガイ科の二枚貝である。北海道南部から九州の内湾の干潟などに生息している。
内湾の歩いて行ける浅場にいるために国内では縄文時代(紀元前16000年前後〜紀元前1000年前後)にも盛んに食べられていた。
古くはたくさんとれたが、20世紀の後半には減少し始め、今や産地と言えるほどの産地は数えるほどしかない。
平安時代の「貝合」の二枚貝であり、雛祭に食べるものでもあり、また「ぐれる」の語源ともなった。伊勢湾名物だったので、「その手は桑名の焼き蛤」なんて面白い俚諺もある。
だれでも知っていそうで、だれも知らないのがハマグリなのだ。

「はまぐり」はあるが、ハマグリは何処かに消えてしまった


それではすし店などで出てくる「はまぐり」はなんなの、と思われる人も多いはず。
あれはチョウセンハマグリという別種なのだ。内湾生のハマグリに対して外洋に面した砂地に生息している。「地はま(地はまぐり)」ともいうし、碁石を作るときの材料なので「碁石蛤」ともいう。
雛祭のときスーパーで特売している「はまぐり」は「ハマグリじゃないの?」と思われる人も多いはず。
あれは中国、韓国などから輸入されているシナハマグリなのである。
もっと話を進めていくと、駅弁やお節料理などに使われている「はまぐり」は東南アジアなどから送られてくるミスハマグリだ。冷凍輸入されていて安いから駅弁に使えるわけで、駅弁の「はまぐり」に和の情緒を感じるのは変である。
標準和名のハマグリと「はまぐり」を見分けるのは至難の業なのだ。

いったいハマグリはどこにある? 東京でいえば高級な仲卸(豊洲などにある魚屋)のある市場とか、産地から直接取り寄せるほかない。
その産地が今は希少なのである。

せめて雛祭には標準和名のハマグリを食べて欲しいものだ


なぜこうなったのか? 海辺の乱開発とゴミ捨て場だと思っている今の社会と、汚染のせいである。
標準和名のハマグリは国内にしかいない。この極端な減少と、絶滅を危惧しなければならないような状況を隠蔽するかのように輸入ものが大量に出回っている。
一度、輸入を全面的に禁止にしたらどうだろう。
今や世界中で海辺の乱開発が行われ、いまだに汚染が進んでいる。
そこに温暖化が追い打ちをかける。
ハマグリも「はまぐり」も全部いなくなる可能性もある。
その未来を早く知って置いた方がいい。
このままでは、〈あかりをつけましょぼんぼりに〉の、雛祭の「蛤の吸物」すら食べられないときが来るだろう。

このコラムに関係する種

ハマグリのサムネイル写真
ハマグリJapanese hard clam, Common orient clam, White clam内湾性。淡水の流入するところで干潟から水深12m前後まで。北海道南部から九州。・・・・
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