202408/16掲載

がやがや、エゾメバル

どこから見ても珍魚ではないが知名度最低の魚なのだ


【学者にとっても水産のプロにとってもちっとも珍魚ではないし、超深海や、南北両極にいるわけでもない。魚屋でもスーパーでもときどき見かける魚だが、目的の魚の隣にいて見向きもされなかったり、見た目が変なので普通の人にとっては珍魚だったり、何気なく見ていると普通だけど、よくよく見ると変で、ちょっとだけ珍しい、のを「隣の珍魚」という。「隣の珍魚」を知っているととても自然に優しいし、環境にも優しい】

全部、「めばる」になってしまう不思議。
最近でこそ、スーパーなどで標準和名で表記されているが、現メバル科メバル属の多くがただただ「めばる」だった。
急激に人気が陰っている「めばる」とされる魚で、標準和名が知られている種はまったく存在しない。
この知名度の低さは、昔、メバルだった魚が3種類に分かれたのも原因だし、もっといえば「めばる」が多すぎるのも問題である。
余談だが、メバル科には一般的に「めばる」と呼ばれるものと、「そい」がいて、ともに岩礁域(根周り)にいる。
クロソイ、ムラソイなどの「そい」は根(底)についているが、「めばる」と呼ばれる魚は全部が全部ではないが少し海底から浮いて暮らしているのだ。
北海道、東北などではこの違いが、もちろん漁業関係者の間ではだが明確にわかっているようだ。
その問題多すぎの「めばる」の中でももっとも問題を抱えているのがエゾメバルである。

北海道ではやけに嫌われている


さて、比較的売れている魚なのに知名度が低く、人気薄なのはその姿が平凡すぎることだ。
見た目のインパクトがゼロに等しい。
その上、エゾメバル、という標準和名を知っている人は国内に住む人のす1パーセント以下だろう。
認知度低すぎで流通価格が低すぎるという意味での「隣の珍魚」だ。
くどいくらいに書いておきたいのは、エゾメバルはとてもうまい魚だ、ということだ。しかも安いのだから人気絶頂となってもおかしくない。

エゾメバルは東北以北の比較的浅場にいる小型の魚であるが、実は比較的漁獲量が多い魚である。
「めばる」界最大の派閥で、高級魚と言ってもいい「沖めばる(ウスメバル」ほどではないが、流通上で見かける機会は決して少なくない。実際、都内のスーパーにもよく並んでいる。実際に2024年になって何度も見ているし、購入している。

ついでに述べておきたいのは北海道での悪名である。
北海道羅臼の港で大量にエゾメバルを釣っていたら、「子供でもそれは釣りません」と笑われたのである。
そのとき地元の漁師さんから言われたことが「がやがやと、いっぱいいるから『がや』です」という北海道では有名な言葉である。漁師さんにとっては大量に揚がっても安い、ある意味困りものなのである。
釣り人にとっては、本命のカレイ類を釣りたくても「がや」、チカを狙っていても「がや」じゃ嫌われても仕方がない。
余談になるが、防波堤釣り師(波止釣り師)としての経験から、この魚の凄いところは1つのハリに2尾が食いついてきたことでも、その釣られたい願望の強さがわかる。こんなに釣られたい魚は見たことがない。

非常に美味、美味としかいいようがないのに安い


定置網などにも大量に入るものの、いちばん邪険に扱われている魚であるのは安いからだ。
この「安すぎる魚=未利用魚」だと考えているのはボクだけだけかも知れない。
こんなにおいしいのに安いのは、「煮つけ」の家庭や社会での料理としての存在感が低下しているためもある。
だから「めばる」全般が低迷しているし、その「めばる」の底辺に存在する「がや」はいつまでたっても「がや」でしかない。
スーパーで「めばる」を見かけたらせめてラベル表記を見て欲しい。
ただの安い「めばる」でしかない、エゾメバルが末永く「隣の珍魚」であっては困るのだ。

このコラムに関係する種

エゾメバルのサムネイル写真
エゾメバルWhite-edged rockfish海水魚。希に汽水域。通常200m(ときに水深355m)よりも浅い岩場・人工魚礁の周囲。水深2m前後の浅場にもいる。北海・・・・
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