202402/09掲載

佐島のボラは金の草鞋を履いてでも探すべし

佐島は関東ではブランド魚以上にブランドなんです


滝沢馬琴の日記を見ても、本草学の書を見ても、ボラは「甚だうまい魚」だと思われていたのだ。
江戸でも尾張でも、大坂でも大量にとれていたので、値の張る上等の魚だとは見なされていなかったが、今で言うところのサンマやサケ以上に人気があった。
例えば尾張では「イナ」とか「スバシリ」などのボラの若い個体をとるのは、レジャーでもあったが、味がいいからだった。
1945年以前くらいまではボラ人気は衰えることはなかったが、1945年以降徐々に人気がなくなり、今や、「食べたらおいしい魚ですよ」、というと「食用魚なの?」と聞き返されるくらいに陰の薄い存在になっている。
原因は1945年以降の敗戦復興と高度成長期の河川の汚染で、臭いボラが大量生産されたためだ。相模湾などではカラスミ用の卵巣をとるための漁が行われていたのに、本体は捨てられていたこともある。
河川は今も相変わらず、瀕死の状態だけど、臭いボラの大量生産は終わり、日本各地どこのボラを食べても臭味はない。
個人的には、ときど通る、東京都千代田区九段、俎橋下にいるボラだって食べたらおいしいかも? と思ったりする。
最近、とりわけうまいと思っているのは、ホームグランドのようなところなので、手前みそになるが相模湾のボラである。深海からの湧昇流(栄養分の多い海水)があるためと、三浦半島にも、伊豆半島にも複雑な磯場があるためではないか、と思っている。だいたい海の色がとてもいいのである。
さて、八王子総合卸売協同組合、舵丸水産で神奈川県佐島(三浦半島の西側)産のボラを見つけた。測ってみると42cm・1.1kgもある。
1尾だけ無残な姿で置かれている、ということはたぶん、あんこ椿に違いない。クマゴロウに値段を聞いたら、やはりそうらしい。

ボラの腹にはかなりの確立で泥や砂が混ざっている


ちなみにボラがバシリと首をへし折られているにはわけがある。
ボラは泥や砂と一緒にご飯を食べる。この砂泥を鰓とか幽門(へそ)とかで濾して、体外に排出している。それためかなりの確立で砂泥を体内に持っているのだ。
刃物でしめるとこの砂泥の細かな粒がばらけて、身にこびりつくので、手で首を折ってしめているのだ。

それほど新しくないのにこの美しさとは


さて、今回のボラ買いには、もちろん偶然だが目的がある。友人に聞いたヨーロッパや中近東の魚の食べ方と、NHKの番組で地中海地方らしき街で魚を食べている情景を見たからだ。
それは別の機会にして、あんこ椿だと思うので、帰宅後大急ぎで三枚下ろしにする。と、意外にもまだまだ刺身でいけるようなのである。
醤油をつけないで食べたら、まったく臭味がなく、味も脂も実に豊か、これぞ「寒鯔」! そのものだった。
お昼ご飯はボラの刺身定食となる。
一切れ、一切れのうま味の量が多い。脂があって少しだけトロリンとした感じがする。
ご飯の糖質と、この豊かな味わいが一緒くたになると無敵である。
佐島のボラ、恐るべし。
また相模湾にボラ探しに行かねばならぬ、なにごとも。

このコラムに関係する種

ボラのサムネイル写真
ボラFlathead gray mullet, 밀치沿岸の浅場、河川汽水域、淡水域。オホーツク海をのぞく北海道〜九州南岸の日本海・東シナ海・太平洋沿岸、瀬戸内海、種子島・・・・・
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