202402/07掲載

大の二枚貝好きなので、白ミル刺身は我が家の定番

脳みその画面に浮かぶ白ミルの不気味すぎる姿におののく

ナミガイ

定番と言っても1月に1回程度だけど、無性に脳にあるモニターに白ミルの妖怪のような姿が浮かんで来るのだ。そう言えば映画『千と千尋の神隠し』を見ていたら、白ミルが買いたくなったのはなぜだろうな? 脳みその深いところを刺激する二枚貝かも知れぬ。
標準和名はナミガイである。キヌマトイガイ科唯一の食用貝で、「波貝」は江戸時代後期の変質的なほどの数寄者であり、比較的分類学のような世界観をも持っていた武蔵石寿の、『目八譜』にある。武蔵石寿は有名な赭鞭会(博物学の会のひとつ)の会員で、歴とした旗本であった。この赭鞭会には大名がいて旗本がいて医師や絵師がいてという、田中優子の言葉を借りると江戸時代の身分を超越した知的サロンのようなものだ。
江戸時代の博物書の特徴は絹纏貝、松山忘、内紫など美しい別の何かに見立てた名が多いことにある。
大名である前田利保も、絵師も、
「それは美しい名じゃのー」
なんて考えた名前に、歯に衣着せぬ感想を、楽しみながら語り合っていたはずである。
さて、今回のものは八王子総合卸売協同組合、舵丸水産にあったもので荷の作りは三河湾産だけど確かめ忘れた。北海道以南に生息しているが、主な産地は三河湾、瀬戸内海周辺である。
ちなみに白ミルというのは明らかに市場名で、下ろして水管だけにするとミルクイ(ミルガイ)の水管にそっくりだからだ。昔はミルガイのニセモノなんて汚名が着せられていたが、ちゃんと食べると、ニセモノというにはうますぎることがわかるだろう。
個人的には市場とか料理店では白ミル、貝類学の世界ではナミガイでいいのだと思っている。標準和名を金科玉条のごときに考えている愚かな人もいそうだけど、もっと勉強しなさいといいたい。
ちなみに、オキナノメンガイ(翁の面貝)という、見た目そのままの標準和名を使っていた貝類学者もいたらしいが、ナミガイよりも面白みがあって好きだ。

水管だけにすると、実に小さい、小さい

ナミガイの水管

さて、貝殻は表面がしわしわで非常に薄く、真っ白でとてもきれいである。
その貝殻に挟まれるように軟体部分があるのだけど、やたらに大きいのである。
例えば全体の重さが250gに対して内臓・外套膜などを除くと、刺身になる水管部分は30g前後しかない。
ちなみに二枚貝が意外に安いのはこの歩留まりの悪さからだ。

白ミルのいいところは1切れの味にボリュームがあること

ナミガイの刺身

水管以外はいろいろ料理するつもりだが、まずは刺身。
貝殻をとり、外套膜と内臓を取り去る。
刺身になる水管は、泥などに深い穴を掘って生きている本種が、泥の上までずーんと伸ばして海水を取り込むためのものなので力ずくで伸ばすとかなり伸びる。
ただ、軽く湯通しして、冷水に取り、皮を剥くと非常に縮むのである。水管1つで一人前とれるかどうかだ。
皮を剥いたらふたたび水分をきり、縦方向に隠し包丁を入れて、横方向に食べやすい大きさに切る。
こりこりした食感と、甘味が豊かであるが、それ以上に二枚貝特有の香りが高いところが素晴らしい。
この味は食ってもらわないとわからないけど、水管1つだとボクは欲求不満で死にそうになる。

このコラムに関係する種

ナミガイのサムネイル写真
ナミガイ英名/Japanese geoduck海水生。潮間帯下部から水深30メートルの砂泥地。北海道から九州、オホーツク海。サハリン、沿海州、太平洋沿岸のメキシコ・・・・
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