202308/09掲載

立秋の日の熊野灘のイワガキ

魚屋の店頭に並ぶイワガキほど魅力的なものはない

生イワガキ

八王子綜合卸売協同組合、マル幸に熊野市からイワガキがきていた。
イワガキは汽水域というか内湾にいるものと外洋にいるものがある。徳島県は最近、天然イワガキの一大産地ではあるが、吉野川の影響を受けるようなところでとっているので内湾ものと考えている。対する熊野灘のものは貝殻からしても外洋ものだと感じられるのだけど、このへんはカイヤさんたちと議論したい。
さて、熊野市は海を見る限り岩だらけだ。海岸線の3分の2は岩場と言っても間違いではないと思う。三重県ではあるが旧紀州徳川家であって暴れん坊将軍が殿様だったことがある。それでこの地方を東紀州という。
志摩市や鳥羽市以上に外洋的なところで、イワガキにとっては決して栄養豊富とは言えそうにないが、逆にとてもきれいな海域で長い年月をかけて育った健全さが感じられる。……もちろん勝手な思い込みだけど。
さて、我ながら想像を絶するような長時間のデスクワークに、体のあちこっちが変だ。魚屋の店頭に美しい熊野灘のイワガキがあったら絶対買わなければ、と思うほど、極悪な体調でもある。すなわちボクにとってイワガキは薬なのだ。
さて、立秋の日が終わろうとする深夜にカシカシと貝殻表面の汚れを落とす。気になる付着物を確保して、エイヤ! と剥く。
流水で貝殻と塩分少々を流して、今回はかぼすを添える。
ちなみにイワガキの軟体部分をぺろりと食らう人がいるが、とてもそんなことをやる気にはなれない。4等分してゆっくり味わいながら食べる。
軟体部分を口の中で転がしながら咀嚼すると、やはり熊野灘のイワガキは澄んだ味がするなと思う。うま味豊かで、ほろ苦くて、微かに硫黄のような風味がして、後から遅れて来る苦味もちゃんとあるのだけど、荒波に揉まれているせいか、食感がほどよくあって、その有象無象混沌とした複雑な味を適度に緩和してくれて後口がいい。次の一切れを心待ちにする瞬間が生まれる。
なんだか吉田健一的表現にならざる終えないのは、ボクの頭がしゃっきりしていないためだ。
合わせた酒は北海道の千歳鶴、1合弱。20年ほど前まで、四谷の行きつけの店でよく飲んでいた酒蔵の酒だけど、吟風ってなんだろう? 普通酒の方がイワガキには合うと思う。


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