202507/23掲載

食文化が消滅しそうなアカエイ

内湾にいるので漁船の油を消費することもなくとれる


日本列島のエイの食文化には北のガンギエイ科の「かすべ」と、南のアカエイ科がある。今回はアカエイの話である。
アカエイは北海道、本州、四国、九州の内湾や川の河口域などの浅場に生息している。夏、干潟や漁港などで観察していると簡単に見つけることのできる、ありふれた魚だ。
非常に原始的な軟骨魚類の仲間で、体に硬い骨はなく、全体に柔らかい。体は上下に平たく円盤形で細長い尾を持ち、尾の中ほどに太くてざらざらした棒状の毒を持つ棘がある。
ちなみにアカエイはとても大人しい魚であり、攻撃してくるようなことはない。また誤って刺された経験のある漁師さんに聞いた限りでは、非常に痛かったが、数日で痛みは引いたらしい。棘を踏んでしまったときなどは確かに危険であるが猛毒で人を死に至らしめる、というのは極端な例である。
市場に出回るものは棘のある尾を切り落としているので安全である。
目は背中についていているが一見、目のように見えるのは噴水口で目は近くにあるが目立たない。鰓と口は体の下に開いている。

1980年代に築地(東京都東京中央市場。現豊洲市場)に行き始めたとき、箱単位で売る仲卸に高く積まれていたのを見ている。場内でアカエイをぶつ切りにしている光景を見て、メモをとっていたら、「買わねーのか?」と言われたので、買っている。
それ以前、江戸川区小岩の食堂で煮つけを食べているし、魚屋やスーパーで切り身が普通に売られていた。東京都内では「えいの煮つけ」は至って普通の食べ物だったのである。
東京では食堂など庶民的な店だけではなく、料亭などでも使うもので、夏の魚として欠かすことの出来ない魚であったという。
江戸時代には適当に切って行商していたようで、これを「赤えいのたちうり(断ち売り)」といった。どんな切り身だったはわからないが、裏長屋での売り買いの情景が浮かんでくるようだ。
夏でも体に保持する尿酸のために腐敗しにくいために、江戸の町だけではなく、山間部にとっても貴重なたんぱく源であったはずだ。
明らかに高度成長期には「アカエイの煮つけ」は「カレイの煮つけ」と同じように日常的な魚だった。一般に馴染みのない魚となったのは2000年前後くらいからではないか、と思う。
アカエイの未利用魚化を食文化衰退型としてもいいだろう。

関東のスーパーなどではほとんど並ばなくなっている。比較的見る機会が多い地域と少ない地域が斑模様となっているが、全体の消費量は急激に減っている。
アカエイを食べる食文化が消費地から消え、いつの間にか普通の食用魚ではなくなりつつあるのだ。
この食文化衰退の原因をアカエイが不気味だからだという人がいる。そう行ったリアクションをするタレントなども見かけるが、牛や豚と比べてもそれほど不気味だとは思えない。

昔はアカエイ専門の空バリ漁が国内各地で行われていた。それほど需要が高かったのだと思われる。今では底曳き網や刺し網、定置網などで混獲されているだけだ。それでも漁獲量は決して少なくない。
漁港などで見ている限り、その多くが廃棄されている。

アカエイの煮つけは誰が食べてもおいしい


とても味のいい魚で、しかも下ろすのも、料理するのも簡単である。
関西では比較的よく、ぶつ切りにしたものが売られているので必ず土産代わりに買って来る。
これを湯通しする。切り身の表面のヌメリが白くなるので、冷水に落としこれをていねいに流す。ちなみに皮を剥いて売っていることもある。こちらの方が簡単に料理できる。
これを酒・砂糖・醤油・水で煮る。
軟骨魚なので骨はこりこりしておいしい。皮や身も上品で味わい深い。当たり前だけど、まったく臭味もくせもない。
さて、アカエイの煮つけは翌日の方がいい。煮凝りができるからだ。この煮凝りを熱々のご飯に乗せて食べると、言葉がなくす。

昔々から延々と続く食文化が消滅するということは、未利用魚を増やすという事だ。
温暖化を止めなければいけないし、自然も守らなければならないご時世なのである。それなのにテレビでは決して自然に優しいとは言えない肉とサーモンの料理しかやらない。今どきのテレビ局と、おバカな料理研究家、なんとかできないものか?

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アカエイのサムネイル写真
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