今季初「なめた」は煮つけから
東京人は「なめた」に季節を感じる

今季初ものは、もちろん無理をしない程度の初もののことだけど、うれしいものである。
取り分け「なめた(ババガレイ)」は待ち遠しい。
10月になると本格的に入荷が始まるが、産卵期と旬が重なるので、腹を触っては、まだだ、まだだ、と待つ。
待っただけにその一箸がうれしい。
近所の魚屋のオヤジは「冬の煮つけの王様だよな」というが、言い得て妙。
子持ちは5月くらいまでやってくるが、11月後半から2月末くらいのがいちばんうまいと思っている。
身離れのいい身を箸でつまんで口に放り込むと適度に身が締まり、調味料に負けない味がある。
真子がほくほくして甘くてうまい。
ご飯と食べてこその、「なめた」の煮つけなのだ

「なめた」の煮つけだけはご飯と結婚させたいので、わざわざ炊いて、炊きたての白飯に乗せて食う。
ちょっと煮汁もたらすと、箸が勝手に動く。
がんばって2膳で止めたが、名残惜しい。
空の飯茶碗に、ああ、言葉などいらぬとぞ思いける。
医者殺しを飲んで、後は骨しか残らない
「なめた」は関東では明らかに高級魚のひとつなのだ

関東、特に東京は水産物で大いに常磐、東北の影響を受けている。
呼び名を見ても、ウバガイがあり、キチジがあり、「なめた(ババガレイ)」がある。
11月になると魚屋が「なめた(ババガレイ)」を探していること自体、東北の影響である。
「高いけど売れるんだよ」と、ボクと同世代の魚屋が仕入れていく。
明治になり、常磐線の開業で常磐ものがきて、東北本線ができて仙台ものがくる。
この「なめた」をよく食べる地域から「なめた」が来るようになって、東京人は「なめた」好きになる。
都内では今でもスーパーに、魚屋に、冬になると「なめた」が並ぶ。
ボクもすっかり東京人になったので、近所のスーパーで今季初「なめた」を探した。
市場だと1尾買いになるので、本種のように大きなものはスーパーが便利だ。
今季も高いのを我慢しての北海道産を見つけて2切れ入りを1パック購う。
まずは1切れで煮つけを作る。
切身なので、湯通しして氷水に落とし、表面のぬめりを皮を破かないように流す。
これを酒・砂糖・醤油・水、しょうがで煮て仕上げに加減をみて、追いみりんをする。