202409/18掲載

ヒメを見て考えた「姫」と「ヒメ」の語源の違い

ヒメは見た目はきらびやかだけど、小魚で地味な魚である


八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産、クマゴロウが新島沖で釣り上げたヒメを撮影しながら考えた。

標準和名のヒメは体長20cm前後の比較的原始的な魚で、本州から九州の比較的暖かい海域の沖合いに生息している。国内海域以外では台湾や韓国釜山で見つかっているだけで、魚類の中でも生息域の狭い種である。
近縁種にイトヒキヒメがいるが、こちらは国内海域では珍しい魚といってもいいが、生息海域は南半球にも及ぶ。系統的に似たもの同士は生息域が南北にずれていて、少しだけ生息域が重なることがあるが、この両種も同様である。

江戸時代が終わり、明治になってドイツから近代的な博物学が入ってくる。鉱物や生物などごちゃ混ぜの博物学は、それでも江戸時代と比べると系統立っていて科学的だった。
そんな博物学(生物学)は国内にいる生物の、実際に使われている呼び名集めから始まる。名のないものは存在しないからで、名がばらばらだと研究できないからだ。

まるで銀色の糸で織ったような地に錦・黄金色散らばる


ヒメは当時の東京医学校(後の東京大学)のそばにあった、日本橋魚河岸で実際に使われていた呼び名を採取した名である可能性が高い。
この場合のヒメは漢字にすると「姫」である。いくつかの意味があり、高貴な女性である王女、妃などを指す言葉でもあり、そこからきらびやかで豪華なという意味と、小さくて可愛いという意味がある。
ヒメは明らかにこの見た目が可愛くて艶やかで美しいところからきた名である。
同じ魚河岸で「ひめ」と呼ばれていた魚にヒメジがいる。こちらも見た目からして赤く小さく可愛らしい。両方とも価値は同じで、練り製品の原料にしかならなかったので区別されないで呼ばれていたのだろう。
またヒメコダイ(姫小鯛)というのも東京での名で、東京(江戸)は姫という字が好きだったのかも知れない。
面白いもので東京では見た目の艶やかさからヒメ(姫)だが、神奈川県相模湾では目玉が大きくて細長いので「とんぼ(蜻蛉)」と呼ぶ。
この地域による捉え方も興味深い。

小さいという意味で「姫」のつく魚の方が多い


「姫」にはもう一つの意味がある。●●よりも小さいという意味だ。コトヒキという魚に対してのヒメコトヒキなどはその典型的なものだ。コトヒキが体長30cm以上になるのに対して、ヒメコトヒキは体長25cm前後にしかならない。
魚類だけではなく貝類のエゾボラに対してヒメエゾボラなども同じく、「一回り小さい」という意味だ。
この場合の「姫」は生物学者が分類学的に命名したもので、生物学者が名をつけるまで実社会で使われたことはない。
標準和名で「ヒメ」がつくものは分類学的にわざわざつけた種の方が圧倒的に多く、実際に使われていた呼び名からとったものは非常に少ない。

見た目と素行はまったく別なのは人間社会と同じ


蛇足になるがヒメは小エビや環形動物など、なんでもつかまえて食べる雑食性だ。
一見、たおやかな姫のようだが、両顎には細かなトゲトゲした歯が並び、口に入れたら最後、どんなことがあっても逃がさないぞ、といった面構えなのである。ある意味、きらびやかな中に悪を秘める的な感じを受ける。

このコラムに関係する種

ヒメのサムネイル写真
ヒメ英名/Japanese aulopus海水魚。水深25-510mの砂、貝殻混じりの砂地、これよりも洗い底質。青森県八戸、青森県津軽海峡〜九州西岸の日本海沿岸・・・・
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