202311/01掲載

秋深し、ショウサイフグでふくと汁

ショウサイは江戸前の魚のひとつだ

ショウサイフグ

松尾芭蕉(青桃)が延宝5年(1677)冬に吟じた【あら何ともなや昨日は過ぎてふくと汁】は江戸で行われた句会のときのもので、『江戸三吟』として出版されている。「三吟」は松尾芭蕉、山口素堂、伊藤信徳である。
江戸時代にフグは「ふくと」、「ふくべ」などと呼ばれていた。
この句はフグという魚の危険性を表すときによく引用されるが、むしろ杉山杉風など魚河岸にも弟子がいた芭蕉なので、普段からフグを食べつけていたのではないかと思われる。
江戸時代は今よりも寒冷だったので江戸湾をはじめ周辺海域では秋から冬にはショウサイフグ、春にはヒガンフグがとれていたはずである。今現在のように相模湾でしばしばトラフグが揚がるような状況ではなかった。トラフグは昭和になっても西の魚で、江戸の魚河岸には並ぶことは希だったと思われる。
中でも取り分けショウサイフグは江戸湾にたくさんいた魚なので江戸前の魚そのもので、この「ふくと汁」は決して上等なものではなく、下手なものではなかったか? だから芭蕉は微かにはにかんで句を吟じ、一緒にいた山口素堂などもそのあたりがわかっていた。
ちなみにあっさり薄味ではなく、濃厚な塩辛いみそを溶き込んだ、フグ類のみそ汁はやたらにうまいし、体が温まる。「ふくと汁」が最初に出てくるだけで、座に温か味が生まれたのではないか、と思う。
また、江戸時代前期、江戸の街で醤油は一般的ではなかった。民俗学者、瀬川清子は昭和になっても地方で醤油は高級だったとしている。とすると調味料は塩かみそだ。直感でしかないがみそと考えた。
江戸時代前期から江戸の街で冬に食べられていた「ふくと汁」は、ショウサイフグのみそ汁で間違いないと考えている

濃い味つけをしてこその「ふくと汁」


八王子総合卸売協同組合、マル幸水産にみがき(毒を除去したもの)が売られていたので、2人前、4本だけ買い求めてみそ汁を作る。
まずはみがきを適当に切り、湯通しする(江戸時代にはしなかったとは思うが)。冷水に落として水分をよくきる。
これを水と少量のみりんの中に入れて火をつけて煮込む。
やや長めに煮てみそを溶く。
松尾芭蕉の時代、関東でみりんは下りもので高価だった。千葉県流山などでたくさん醸造されるようになったのは江戸時代文化年間(19世紀はじめ)なので、本来は使わなかったと思われる。みりんは現代風ということになる。ただ少量のみりんが入るだけで味が極めて奥深くなる。
みそは不明だが、魚のみそ汁には原則的に合わせみそを使う。今回は愛知県の豆味噌・京都の白みそ・宮城県の仙台味噌をすった。
塩分濃度の低い白みそを使うことでとろっとした濃厚な味わいになる。
この一椀でご飯のおかずにも、酒の肴にもなる。
酒の肴となるとこの句は宴の翌日ともとれる。
素朴な料理ではあるが、これほど滋味豊かで飽きの来ないものはないと思う。
もちろん白身ならなんでもうまいみそ汁になるが、冬らしさからするとフグがいい。


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ショウサイフグのサムネイル写真
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