202302/26掲載

竹岡産乗っ込みクロダイ

竹岡産活クロダイ


関東では、三寒四温ではなく四寒三温で春は足踏みしている。今、流通上というか関東の市場に多いものといえば、まさに春の乗っ込みのクロダイである。
昔、この時季、東京都、千葉県内房、神奈川県などの船釣りの狙いは乗っ込みのクロダイになることが多かった。これが最近、様変わり、主役がタチウオに置き換わってしまっている。それでもまだ早春の市場にはクロダイがわんさかやって来ていて、春が来た、と感じさせてくれている。
江戸時代の書には「鯛に次ぐ魚」となっているが、この黒い地味な魚が、最近とんと人気がない。当然、安値で安定している。挙げ句に、江戸前海苔(スサビノリ)を食害する害魚みたいな存在に成り下がっている。
都内の流通を見ていると未だに赤が高く、黒が安い傾向がある。黒で高いのはクロムツとムツだけだ。本来クロダイはクロムツ、ムツに並んでもいい存在、安い魚ではなかった。
1980年代など明らかに高級魚ではなかったか? なぜこんなに不人気になったのだろう?
豊洲市場で千葉県竹岡産尺上、1㎏のまん丸な活魚を買って、思った以上の安さに首をひねる。竹岡は都内市場では名のある産地である。仲卸から「竹岡ですよ」と言われると、多少高くても仕方がないと思うのに安い。

締めたばかりの背の刺身


クロダイは料理法を選ばない魚である。外は黒でも中身は美しい魚。とりわけ活魚のうまさは別格だと思っている。
水洗いすると卵巣が膨らみかけていた。本種の特徴が産卵を控えて漁の最盛期をを迎える。寒い時季が旬だが、春が進むと生殖巣の成熟度合いが増し味ががくんと落ちる。竹岡のクロダイを買ってもう少し先まで“買いの時季”は続きそうだと確認できた。
朝方締めたばかりのを刺身にすると、身が生きているので包丁が引けない。
皿に盛っても揃えた切り身がずれる。活魚をしめたばかりは味がないというが、これはこれでおいしいと思っている。
翌日、うま味が増しての刺身も悪くないが、この強い食感の刺身がやけにうまい。
背は身が均質でうま味甘味もほどほどで後からじわりと脂の甘さが追いかけてくる。

腹身の刺身


背が均質なら腹は強い食感と脂の甘さが際立つ。

焼霜造り


腹の身を皮付きのままやや強めにあぶり、刺身状に切った。
皮の食感と強いうま味、皮下の一度溶けた脂の味。これこそがあぶることで生まれた美味そのものである。

皮霜造り


三枚に下ろして皮付きのまま湯をかける。冷水に落として水分を拭き取り刺身状に切る。
皮本来のうま味と穏やかな甘味、うま味がじっくり楽しめる。
3日間で刺身、焼霜造り、皮霜造り、あら煮を作る。
竹岡の極上のクロダイは3日に亘って舌を楽しませてくれたことになる。
これほどうまい魚、食べない手はない。

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クロダイのサムネイル写真
クロダイBlackhead seabream海水魚。内湾、汽水域や沿岸の岩礁。北海道〜九州南岸の日本海・東シナ海沿岸、北海道〜九州南岸の太平洋沿岸、瀬戸内海。朝・・・・
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