
八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に産地不明のボタンエビがきていた。
小振りで見た目にはあまりいい状態ではないが、鮮度はいい。
明らかに千葉県銚子以北の底曳き網で揚がったものである。
タラバエビ科のタラバエビ属のエビは近年高騰している。
完品はとても手が出ないことが多いので、思わず手が出た。
一般に、「ぼたんえび」と呼ばれている標準和名トヤマエビはカゴ漁でとっていることが多いので、ときに生きているものが混ざるが、太平洋側の標準和名ボタンエビは底曳き網でとっているので品質にばらつきがある。
トヤマエビは比較的流通量が多いが、ボタンエビの流通は少なく貴重でもある。
今回のは壊れもあるものの、見つけると必ず買うのは流通量が少ないからだ。
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新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っていく。
新川漁協に水揚げされる水産物は量的には多くないが、多彩である。
うまいもん揃いだとも言えるだろう。
その最たるものがコナガニシである。
日本海に多い巻き貝であるが、唾液腺にテトラミンを持ち、内臓に苦みがあるなど、非常にやっかいな存在だ。
日本海側では鳥取県、石川県では食べているが、他の地域では見向きもしない。
ただし、刺身にするとこれ以上の美味は望めない、と思っている。
歩留まりは最低である。
食べる部分はふたのついた足の部分だけ、あとは洗い流す。
ぬめりはほとんどないので、水分をきって適当に切るだけだ。
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新潟に行ったはいいが、あまりにも慌ただしく、最低限の買い物しかできなかった。
旅の疲れがとれた木曜日(2025年9月4日、八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産に行くと新潟県佐渡石原水産からアラが来ていた。
佐渡をはじめ新潟県を代表する魚のひとつがアラである。
なんとなく縁を感じて買ってみた。
体長43cm・713g なので関東でいう「小アラ」よりも大きく、「中アラ」というべきだろう。
とりあえず刺身を造る。
水洗いをして三枚に下ろし、皮を引き、腹骨を大きく取り、血合い骨を抜き、皮を引く。
やや薄めに切りつける。
それほど脂がのっているわけではないが、アラのよさはうま味と上品な舌触りにあり、なので気にならない。
それにしてもうま味が長々と続き舌の上でだれない、その上、後味がいい。
ついつい箸が伸びる、といった味である。
だから年がら年中関東の市場に置かれ、いつも高値がついているのだ。
端的に言うと、アラを食べることは贅沢をすることなのである。
酒は新潟県新潟市内野町の「鶴の友」。
地味だけどアラの刺身に合う。
箸も止まらず、酒も止まらず、とあいなる。
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新潟県西区五十嵐新川漁港周辺の生物・食物図鑑を作っていく。
新川漁協やその周辺には自然界にも、食べ物にも詳しい猛者がたくさんいる。
この猛者とともに見つけた生物・食物の一番目は砂浜にいるフジノハナガイである。
大きさ1cm前後の小さな小さな二枚貝だけど、実に美しい。
形はスヌーピーのようだし、名前の通り「藤の花」の花弁のようだ。
やたらに美しく、しかも可憐である。
昔々は子供達の格好の遊び相手だった。
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『越後名寄』は非常に重要な書であるが、水産生物もしくは地誌、歴史の豊富な知識を持たない人間には意味のないものである。
ただし、本書を丹念に紐解くと、江戸時代の越後という土地柄がもちろんほんのわずかだが見えてくる。
また本書に関してはネット上での閲覧が可能である。
著者の丸山元純(天和2/1682-宝暦8/1758)は越後長岡藩(牧野家)内の医師の家に生まれ、越後寺泊で医師として暮らす。
徳川綱吉から吉宗、家重と比較的安定した時代を生きる。
『越後名寄』(宝暦6年 1756年)は越後の地誌である。
江戸の文化史としては平賀源内以前であることも重要であるし、化政期以前になったことにも意味があると思われる。
明らかに本草綱目の影響下にある『和漢三才図会』(正徳2年 1712)に習って、越後という地域の地誌を網羅したものと言えるだろう。
全三〇巻の大著だが水産生物的には、巻二四、二五だけとみていい。
また呼び名などでは、『物類称呼』(越谷吾山著 安永4/1775)以上に重要である。
■本コラムは、じょじょに改訂していく。
本書の重要性を教えていただき、閲覧を許可していただいた、上越市公文書センターには大いに感謝。
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普段のおかずは、ありきたりな何もない日に暇みつけて作るもので、ありふれたものでしかない。
ただし、そんなものが日々の生活には大切だし、日々を豊かにしてくれるのである。
さて、おかずの代表格といえば煮魚だろう。
魚の身も皮も余すことなく食べられて、ご飯に合う。
煮魚は煮汁を多めにして煮ると失敗しないが、この煮汁があまることがある。
魚を湯通しするのは煮汁を濁らせないためだし、二度使いすることを見越してだ。
そんなときは少しずつ冷凍保存しておく。
魚でも貝でも、イカタコでもいろんな汁を継ぎ足し継ぎ足しすると、非常にうま味豊かな調味料が出来上がる。
あまり味のない魚を煮つけるときにも使えるし、野菜や豆腐を煮てもおいしい。
今回はこの保存して置いた煮汁でおからの炒り煮を作った。
魚料理をよく作る家なら定番料理にすべきである。
なんといってもおからは安くてうまい。
おからは豆乳を絞った「から」なので「おから」だけど、ここには大豆のうま味がたくさん残っている。
それが魚貝類から染み出てきたうま味と一緒になると、大層なごちそうになる。
ご飯の友として作っているが、夜酒の友にもなる。
おかずとしても肴としても一級品である。
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昼に千葉県銚子産を塩焼きで食べて、夜に北海道根室産のマイワシを塩焼きで食べる。
ともに100g前後だが、脂の量は根室産が銚子産を圧倒している。
塩焼きは脂の多い方がうまいのか?
残念ながら、脂がのった方がおいしい。
気になるのは魚焼きグリルの中が火事になることだけ、やっぱりマイワシの塩焼きは脂ののったものがいい。
根室産の方が値段は2倍もするので、値段通りの味だ、と言ってもいい。
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瀬戸内海周辺は「茶かゆ」をよく食べる。
家島諸島(兵庫県姫路市)坊勢島でも、「茶かゆ」を食べているのだとばかり思っていた。
実際に坊勢島に水揚げや水産物の話を聞きに行って、ついでと言ってはなんだが、「茶がゆ」のことを聞くと、島では「茶がゆ」ではなく「緑豆がゆ」だという。
坊勢漁業協同組合で教わって、「どんなものだろう、食べたいな」と言ったら、島のオカアサンが持って来てくれた。
朝煮て、冷たくして昼に食べようと思っていたものらしい。
それほど冷えてはいないが、喉ごしがいいので涼やかな味がする。
程よい塩味で、緑豆のもつ、青臭み(?)が実に好ましい。
気がついたら、オカアサンのお昼ご飯を全部平らげてしまっていた。
お昼ご飯、大丈夫だったかな?
「緑豆の入ったかゆは食べても、すぐ腹が空きます」
と言われたが、本当にすぐ腹が空いてきた。
坊勢島にはすしの名店があり、旅館のご飯も矢鱈においしかった。
鱈腹食べた後なのに、また「緑豆がゆ」が食べたくなった。
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