福島県南会津町旧岩館村岩下の「つむづかり」
栃木県から伝わったものだが、料理としてはまったくの別物である

栃木県、群馬県、埼玉県、茨城県の利根川水系周辺で初午の日に作るのが「しもつかれ」である。塩ザケの頭と大豆、にんじん、大根、油揚げ、酒粕、ときに酢を入れる人もいる。これを大鍋で煮るという料理で、この地域のものはほとんど変わらぬ作り方と、味だ。
ところが福島県南会津町(旧舘岩村・伊南村・南郷村)では「つむづかり」と訛り、作り方も具材も違っている。
基本的に南会津町岩下で分けていただいたものなので、南会津町全域が同じとは思えないものの、栃木県の「しもつかれ」とは似て非なるものである。
南会津は栃木県の湯西川や日光、大田原市などと郷里が近く、当然、関わりも深い。「出稼ぎの地」でもある。
「つむづかり」は栃木県から伝わったとされているが、取り分けこの「出稼ぎの地」から伝わった可能性が高い。聞取した限りでも栃木県から伝わったのは明治時代にまではたどれそうである。
本来、栃木県の「しもつかれ」は旧暦の初午の日に作られていた。南会津では最初から新暦で作られているところにも明治時代以降の伝播だからではないかと思っている。
■写真は2月の南会津町岩下。
赤飯、「つむづかり」、「おからくだんご」は神棚にも供える

福島県南会津町の「つむづかり」は初午の日の前日に作り、初午の日に赤飯、「おからくだんご」とともに神棚に供え、稲荷の祠、稲荷神社に奉納する。
この地区では、「つむづかり」は午の日の前日にしか作ってはいけない。
初午の日には火を忌避して使わない。風呂を焚くこともしなかった。前年に不幸があった家では、この行事自体を行わない。
写真は南会津町岩下 君島家の神棚に祭られていたもの。
黒い高坏に赤飯、「つむづかり」、そして「おからくだんご」。
「おからくだんご」は、「おからく」とだけ言う人がいるし、「おからくだご」と言う人もいる。米の粉を水で練って円錐形にしたもの、あくまで供え物で食べることはできない。
神棚に供えたものを近所の稲荷の祠にも供える。
雪深いところなので初午、二の午の日に稲荷までたどり着けないことも
南会津町にはそこここに稲荷神社、祠がある

祠に供えたら、色紙を繋げて「奉納正一位稲荷大明神」と書いたものを稲荷の周辺の木の枝などに結ぶ。
また色紙には子供の名前を、息災を願って書いたりもする。
普通は初午の前日に作るが、岩下の一部の家庭では、過去に初午の日に火事があったため、「火を避ける」ということで二の午の前日に作る。
稲荷神社・祠に供えるのも二の午である。
ちなみに2025年の初午は2月6日、二の午は12日後の18日になる。
■歴史的なことは「しもつかれ、すみつかれ、つむづかり、について」へ
https://www.zukan-bouz.com/article/96
南会津町岩下『ハローショップ みどりや』の「つむづかり」

材料は塩マスの頭、鬼下ろしで下ろした雪の下に保存して置いた大根、刻んだにんじん、竹輪・薩摩揚げ、丸のままの大豆ではなく打ち豆だ。
打ち豆は福島県では作られてもいるし、日常的に食べられている。栃木県にはないと思っている。また、栃木県では油揚げを使うが、竹輪や薩摩揚げというのが南会津の特徴でもある。
作り方はまず、マスの頭はゆでてほぐす。
ほぐした塩マスの頭、鬼下ろしで下ろした大根、いちょう切りにしたニンジン、早煮昆布、打ち豆、少量の酒粕(入れなくてもいい)と塩マスの頭をゆでた汁で煮る。
にんじん、大根などからも汁が出てくる。
塩マスに塩気があるので、味つけは不要だ。
できたてよりも数日後の方が、味が馴染んでおいしい。
写真は作ってから5日後に撮影したもの。実にあっさりして食べやすい。
非常にご飯との相性がよく、食の進むおかずでもある。
栃木県などと違うことは、午の日の前日に作った「つむづかり」の煮汁さえとっておけば、何度でも作ることができること。
再度作るときには普通に「つむづかり」を作り、残して置いた汁を加える。