キアンコウ

キアンコウの形態写真一覧 (スワイプで別写真表示)
雌は体長1.5mを超え、雄は成長しても体長60cm前後にしかならない。縦扁している(楯に平たい)。上から見るとやや楕円形。左右に大きな胸鰭が目立ち、鰓穴は胸鰭後部にだけ開いている。上膊棘は棘状で枝分かれなどはしない。口の中に顕著な白い斑紋がない。
雌は体長1.5mを超え、雄は成長しても体長60cm前後にしかならない。縦扁している(楯に平たい)。上から見るとやや楕円形。左右に大きな胸鰭が目立ち、鰓穴は胸鰭後部にだけ開いている。上膊棘は棘状で枝分かれなどはしない。口の中に顕著な白い斑紋がない。[裏側]
目と胸鰭の途中にある棘(上膊棘)は1本。アンコウの棘はいくつかに枝分かれしている。
口のなか歯の奥は暗褐色で不明瞭な斑点はあるものの、アンコウのように丸く大きな白い斑紋がない。
キアンコウは生きているとき発光しているものがいる。

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珍魚度・珍しさ★★
少し努力すれば手に入る
魚貝の物知り度 ★★
これは常識
食べ物としての重要度 ★★★★
重要
味の評価度 ★★★★
非常に美味
分類
顎口上綱硬骨魚綱条鰭亜綱新鰭区正骨下区側棘上目アンコウ目アンコウ科キアンコウ属
外国名
Angler fish, Yellow goosefish
学名
Lophius litulon (Jordan, 1902)
漢字・学名由来

漢字 黄鮟鱇、黄華臍魚(あんごううお)、黄老婆魚、黄琵琶魚、黄蝦蟇魚 Kiankou
由来・語源 一般的に「あんこう」とされているもの。本種に黄をつけたのは松原喜代松とその周辺の人達だと思うが、これこそが混乱の元である。関東などで「くつあんこう」と呼ばれているLophiomus setigerus に標準和名のアンコウを当てているが、本種こそがアンコウであるべきだった。
実際、田中茂穂は本種を単に「アンコオ」として、現標準和名アンコウ(Lophiomus setigerus)をクツアンコオとしている。
〈有柄亞目アンカウ科キアンカウ屬 キアンカウ Lophius litulon (JORDAN) Syn.Lophiomus longicephalus TANAKA〉『日本産魚類検索』(岡田彌一郎、松原喜代松 三省堂 初版1938)

あんこう・あんこ
和漢三才図会に「華臍魚(あんごううお)」。「老婆魚」、「綬魚」、「琵琶魚」とも。「華臍魚(あんごううお)」は腹に帯があって帔(もすそ)のようである。「綬魚」は子は生まれてその上に付く。
あんこのこと。これ自体でふっくらした。丸みのあるという意味合いがあるのではないか? 髪を結うとき髪にボリュームをつけるためのすき髪のことを「あんこ」というのと同じ。和菓子の餡とも関係がありそう。
「暗愚魚(あんぐうお)」の意味。「暗愚」とはのろまで愚か者の意味。見た目のぶよぶよして、太っていることからきたもの。「あんぐうお」が「あんこう」に転化。
あんこ型。相撲の世界に今も残る言葉に「あんこ」がある。腹が出て、全体に丸みのある力士のことを「あんこ型」というが、「あんこ」は丸く太っていることをさす。丸く太っている魚だから「あんこ」が転じて「あんこう」になった。
釣りをする魚。英名のAngler fishは「釣りをする魚」の意味がある。これは背鰭の第一棘が竿のように伸び、先端に小魚を思わせる皮弁がついている。これをあたかも小魚が泳いでいるように動かして、それに近づいてくる魚を飲み込む。

Jordan
David Starr Jordan〈デイビッド・スター・ジョーダン(ジョルダン) 1851-1931 アメリカ〉。魚類学者。日本の魚類学の創始者とされる田中茂穂とスナイダーとの共著『日本魚類目録』を出版。
地方名・市場名
アカアンコウ
参考静岡県水産・海洋技術研究所・伊豆分場 場所静岡県土肥 
ホンアンコウ[本あんこう] アンコウ アンコオ
備考本あんこう、アンコウ、アンコオ。 

概要

生息域

海水魚。水深25-560m。
北海道〜九州南岸の日本海・東シナ海、北海道〜九州南岸の太平洋沿岸、兵庫県明石、瀬戸内海、有明海。渤海湾、黄海、東シナ海北部、朝鮮半島全沿岸、済州島、広東省、ピーター大帝湾。

生態

雄は小さく、雌の方がはるかに大型になる。
口の上にある背鰭第1棘の先端に、ひらひらしたエスカ(esca/疑餌状体)と呼ばれる皮弁(布状のもの)がついていて、エサのように動かして、小魚を誘い、近づいてきたら食べるという。
まるでルアー釣りのようで、英語のAngler fishはここからくる。

基本情報

国内では南西諸島、琉球列島をのぞき日本各地で水揚げがある大型魚だ。一般に「あんこう」、「本あんこう」と呼ばれているのは本種、キアンコウのことだ。本来「あんこう」であったものに「黄」をつけるという不思議なことをなぜ、魚類学の世界でやらかしたのか謎である。
国内各地で水揚げを見ているが「あんこう」として水揚げされている多くが本種で、標準和名のアンコウは市場では「くつあんこう」と呼ばれることが多く水揚げ量はとても少ない。
流通するのは雌が多く、しばしば1m以上、重さ30kg前後になる。雄は安く体長60cm前後にしかならない。
エスカ(esca/疑餌状体)で誘い寄せた魚でも甲殻類でもなんでもかんでも胃袋に詰め込めるだけ食べる。過去に海鳥を食べていたという例すらある。
古くは西日本では食べず。東日本、とくに東京から常磐にかけて盛んに食べられてきたもの。「東にマナガツオなく、西にアンコウなし」という俚諺もある。
江戸時代以来、江戸湾でも水揚げがあったこともあり、江戸の町でも値段の安さから庶民的な味であったようだ。神田須田町にある「あんこう鍋」の老舗、『伊勢源』の創業は天保元年(1831)だが、本来、家庭料理であったものを料理店で出すようになったのではないかと思われる。
江戸時代の『魚鑑』に〈寒中その価尤貴し〉とあるように、寒くなると値を上げる。特に関東では古くから「鮟鱇鍋」は冬の風物詩でもあり、これを詠んだ俳句も少なくない。
またアンコウ類には捨てる部分がなく、部分部分の味、食感の違いが楽しめる。もっとも珍重されるのが肝である。アンキモ(アンコウの肝)だけの流通もあり、また肝だけの缶詰などもある。
近年、寒い時期には需要が満たすことができないので、中国産やアメリカから輸入されてもいる。
珍魚度 珍しい魚ではないが、丸のままを見るのも、手に入れるのも努力が必要となる。スーパーや魚屋さんなどではキアンコウではなく「あんこう」として売られているので要注意。

キアンコウの口内 歯に気をつけて口を開くと歯の奥、口内は暗褐色で、目立たない小さな斑紋があるだけ。
アンコウの口内 歯に気をつけて口を開くと歯の奥、口内は暗褐色で大きくて白い斑紋がある。

水産基本情報

市場での評価 暑い時期をはずせば、いつも入荷がある。特に寒い時期には需要もあり入荷量が増える。近海ものは高い。東シナ海、中国から輸入されたものはやや安い。
漁法 底曳網、刺し網、釣り
主な産地 山口県、島根県、福島県、青森県
市場での売り方 市場では腹を割き、肝が見えるようにした状態で売られることが多い。
活魚 最近、活魚での入荷もよく見かける。

選び方・食べ方・その他

選び方

触って張りのあるもの。粘液に透明感のあるものがいい。

味わい

旬は秋から冬。
鱗はない。皮は柔らかいが強く破れにくい。骨は軟らかい。
透明感のある白身だが、すぐに白濁してしまう。非常に水分が多く、煮ると縮むが硬くはならない。
身よりも七つ道具のあとの6つの方が味がいい。
鮟鱇の七つ道具/肝、皮、とも(鰭と鰭についた筋肉)、水袋(胃)、ぬの(卵巣)、鰓、柳・大身・台身(身)。

料理の方向性
水分が多く、熱を通すことでしまる。ただし焼く水分が表面に浮き上がってきてべたつく。水分を使った汁もの、煮ものなどに向いている。また揚げて時間が経つと水分が浮き上がってくるが、早めに食べると美味。

栄養

危険性など

両肩の棘は非常に硬く鋭いので要注意だ。歯もとても鋭くうっかり触るとケガをする。

食べ方・料理法・作り方

キアンコウの料理・レシピ・食べ方/煮る(しょうゆ鍋、みそ仕立て鍋)汁(スープ)、煮る(煮つけ)、ソテー(ムニエル)、揚げる(唐揚げ)、生食(刺身)
アンコウの常磐風みそ仕立て鍋 いちばんうまいのは、歯以外のすべての部分をごった煮にした鍋だと思っている。あんこう鍋には茨城県などのみそ仕立て、江戸・東京の醤油仕立てがある。茨城県は古くは国内屈指のキアンコウの産地だった。その地で作られているみそ仕立ての鍋は肝を溶かし込んだ濃厚な味である。
鋭い歯などに気をつけて下ろす。筋肉、皮、身、胃袋、肝、卵巣などに分けて、食べやすい大きさに切る。肝をいりつけてみそを合わせ、七つ道具を加えて状況を見ながら酒と水を足しながら煮ていく。茨城県の鹿島灘沿岸での作り方で、濃厚な味わい。野菜は好みで。

あんこう鍋東京風しょうゆ仕立て 東京では古くから「あんこう汁」、「あんこう鍋」が食べられてきた。これは房総半島上総(千葉県)、相模国(神奈川県)などでさかんに水揚げされていたからだ。筋肉、皮など七つ道具は適宜に切る。湯通しし、冷水に落としてあら熱や血液、ぬめりなどを凪がす。水分をよく切っておく。肝はあらかじめ蒸しておく。これをカツオ節出しにみりん、しょうゆの味つけの地で煮ながら食べる。
あんこうのチゲ 基本的に「チゲ」の概念がわからない。韓国の方に聞いてもよくわからなかった。汁は煮干しだし、コチュジャンや魚醬、しょうゆ、酒などで味つけした。これでキアンコウの皮、胃や身、鰭、肝などを煮ながら食べた。具はキムチとせり、アサツキ、豆腐である。キアンコウとキムチと唐辛子、コチュジャンはとても好相性だった。
あんこうみそ仕立て汁 要するにキアンコウのみそ汁である。身や皮、肝などは適宜に切り、カツオ節出し(水でも可)で煮てよくアクをひく。酒、みそで味つけする。野菜はお好みのものを使うとよい。アンコウからはこくのあるだしがでて、身はぷるんとしてイヤミがない。
キアンコウのトマト煮込み キアンコウの尾の部分の筋肉に塩コショウしてオリーブオイルでじっくりとソテーする。途中、トマトのみじん切り、にんにくを加えて、少し炒め、ホールトマト(生の湯むきしたトマトの方がうまい)をつぶして入れる。ローリエ・タイム・セージなどを加えて煮込む。
あんこうのとも和え キアンコウの皮、身、肝、胃袋などをゆでる。冷水に落としてぬめりなどをのぞく。適宜に刻んでおく。酢みそ(加減みそでも可)と肝をすり鉢ですったものと和える。酢を使うか否かはお好みで。
キアンコウの煮つけ キアンコウの頭部をぶつ切りにして、湯通しする。冷水に落としてぬめりなどを取る。これを酒、みりん、しょうゆ、水を沸かしたところに入れる。ときどき味見してみりん、しょうゆなどを加減して煮上げる。臭味消しはしょうが、八角などが合う。
あんきも(キアンコウの肝の酒蒸) キアンコウの肝(肝臓)を取りだし、血管や皮膜などをていねいに取り除く。これを酒に1時間ほど漬け込んでホイルに巻き込んで蒸し上げたもの。舌に乗せると脆弱につぶれ、味は濃いものの甘味と独特の渋み、うま味が感じられて美味。
アンコウのムニエル(キアンコウのムニエル) 柳肉などと呼ばれている体幹部分を使う。剥きアンコウなどを使うとより簡単である。水洗いして体幹部分を三枚に下ろす。振り塩をして1日寝かせる。適当にきり、再度水分をよく拭き取り、塩コショウ、小麦粉をまぶしてじっくり香ばしくソテーする。表面は香ばしく、中は弾力のある身で実に面白い食感。魚らしい甘みも少ないながらあってやたらにおいしい。

あんこうの唐揚げ 身を適宜に切り、脱水シートで水分を適度にのぞく。この場合、あまり水分を抜きすぎない方がいい。これに片栗粉をまぶして揚げたもの。揚げたてに塩コショウを振る。長く置くと水分が戻るので揚げたてを食べて欲しい。
キアンコウの干もの キアンコウの身はやや淡泊で水っぽい。これを適宜に切り、短時間立て塩に浸して、水分をよく切り、干し上げたもの。塩は控えめに。強く干すと身が締まり、おいしい。

好んで食べる地域・名物料理

あんこうの共和(あんこうのともあえ) 身、皮、えら、胃袋、卵巣などをゆでて、肝の入ったみそをつけながら食べる。[茨城県水戸市]
あんこうのどぶ汁 アンコウの肝を炒りつけ、水分の多いアンコウの身、皮、内蔵などを入れて、みそ味で煮ながら食べるもの。[水戸市、ひたちなか市、北茨城市]
あんこう煮 東京ならではの、しょうゆとみりんで味つけした、やや甘めで濃厚な味つけ。煮ものというよりも、汁に近い。築地場内の店には東京ならではの味が楽しめる店が多い。[かとう 東京都中央区築地]
あんこうともあえ(鮟鱇とも和え) ゆでたキアンコウとみそ、酒粕などで味つけした肝を和えたもの。クセがなく、キアンコウの肝の味が楽しめて美味。スーパーや魚店で売られているほか、料理店でもある。[青森県下北半島、弘前市・青森市・黒石市など]

加工品・名産品

干物。

釣り情報

歴史・ことわざなど

アンコウの汐待 〈背鰭の第一棘がのびて竿状となり、これを動かして小動物をさそいよせ、いながらにして食餌をあさるので〉。『飲食事典』(山本荻舟 平凡社 1958)
あんこ 相撲で「あんこ」、「あんこ形」というのは丸みがあって太っている力士をいう。これはもともと「魚のアンコウのような体形」という意味だ。
琵琶魚、蝦蟇魚 姿は楽器の琵琶に似て、口などは蝦蟇のようだということ。『魚鑑』など。

鈞切(吊るし切り、釣るし切り、つるしぎり) 〈この魚を割くには方法があって、鈞切(つるしぎり)という。まず縄を魚の下唇に通して屋梁(はり)に懸け、水を五、六升ばかり口から入れる。水が口から溢れると止める。まず喉の外皮を切り、次に身の周りの皮を剥ぎ、それから髭と肉を割き、肝を採り、腸と骨を割き、刀で胃袋を刺すと、はじめに口から入れた水が迸り出る〉『和漢三才図会』(寺島良安 東洋文庫 平凡社 正徳2年 1712)
写真は水戸市公設地方卸売市場仲卸で、今も行われている吊るし切り。