マガキ、基本のキ 読むカキフライ


小説など活字となった文章の中の「カキフライ」を見つけてはつけ加えていく。できるだけ時代順に並べる。
まずはカキフライとは?
カキフライが生まれたのは日本だと思っている。海外にカキフライもしくは似た料理があるのかどうかはこれからの課題。
カキフライはカキの剥き身(マガキ)にパン粉をつけて揚げたもののことだ。
同様の料理にはエビフライ、とんかつ(カツレツ)などがある。
「カキ(マガキ)」はわかるが、「ふらい」は揚げるという意味。
揚げるは、英語で「Fry」、フランス語で「frire」でここから音をとったと思うべきだろう。
「とんかつ」の「かつ」はフランス語のコートレット(côtelette)からきているとされている。コートレットが「カツレツ」にも変化する。

なぜか、マガキのフライを「かきかつ」とは言わない。
海産物は、エビフライにアジフライ(マアジ)、魚のフライ(切り身)とフライ。
陸上動物はトンカツ(豚肉)、牛カツ(ビーフカツとも)、チキンカツとカツである。
フライもカツもパン粉をつけて揚げるという意味で同じだが、料理店で使い分けることにしたのだろうか。

カキフライを最初に作ったのは、今銀座で健在である『煉瓦亭』だとかの説がある。
『煉瓦亭(明治28年/1895)』は「とんかつ(カツレツ)」発祥の店だとされている。そしてマガキを使った「カキフライ」も、である。
ボクもカキフライは大好きで日本橋周辺で仕事をしていたとき、10月になると高嶋屋裏によく通ったものだ。
ちなみに徳島県美馬郡貞光町(現つるぎ町)生まれの田舎者が、カキフライを初めて食べたのは上京してからのことだ。
あまりにもおいしいのでショックを受けた記憶がある。

安藤鶴夫、『年年歳歳』「賀状」、鳥越一新亭のカキフライ


安藤鶴夫は明治41年(1908年)東京都浅草橋あたり(鳥越神社の南、浅草橋2、3丁目周辺)で生まれた。法政大学を出て都新聞社に入社。やがて独立して評論家となる。直木賞を受賞した『巷談 本牧亭』などすばらしい小説も残す。
落語、歌舞伎など演芸に関しての著書も多い。父親が義太夫、竹本都太夫であるなど生粋の江戸っ子と言えそう。
本書『年年歳歳』(安藤鶴夫 旺文社文庫)もそうだが、現在買える著書の多くが高額な旺文社文庫なので若いとき、アンツル本(ボクの勝手な呼び方)を集めるのは大変だった。
「賀状」は大坂の鶴屋八幡からだしている雑誌『あまカラ』に昭和38(1963)から昭和41(1966)年に連載していた「食べもののでてくる話」が初出。(文庫本解説による)

11月半ば、賀状を作るために本所、被服廠(正確には旧陸軍被服廠跡。1923年関東大震災のとき避難してきた人が大量に被災して死んでいる。東京都墨田区横網)近くにある木版屋に寄り、隅田川にかかる厩橋を渡って『駒形どぜう』の前を通る。
東駒形で墓参りをして、鳥越に向かう。
子供の頃(大正時代と考えていいだろう)、父親と通っていた、洋食屋、『一新亭』にいくためだ。

一新亭に行くと、わたしは、いつでもメンチボールを注文する。メンチボールという和製英語も、なんだか、おかしくって、好きなのである。
それと季節にもよるけど、カキフライなんかが、一新亭らしくっていい。


東京都台東区浅草橋に今もある、『一新亭』が安藤鶴夫が子供の頃から馴染んだ店、なのかはわからない。
デジカメ以前に立ち寄っているが、メンチボールはなかったと記憶する。
時季だけどカキフライはあるのか、ないのか?

三田純一の道頓堀、かき船のカキフライ


まずは、『道頓堀 -川・橋・芝居』(三田純一 白川書院 1975)
三田純一(1923-1994)は道頓堀にあった芝居茶屋「稲照」で生まれる。演劇の脚本家であり、芸能評論家でもある。

昭和四十年に廃業した「牡蠣料理 かき秀」は道頓堀戎橋南詰にあった「かき船」である。
大坂の「かき船」は宝永元年(1704)にはあったとしている。
広島県産の「かき(マガキ)」を商う店でやがて料理も出すようになる。
三田純一は〈道頓堀名物のかき船〉としているので、道頓堀川にはたくさんの「かき船」があったのだろう。
「牡蠣料理 かき秀」はそんな道頓堀に浮かぶ、「かき船」であった。

定食
つき出し
酢がき
かきフライ
どて鍋
かき御飯 または かき雑炊
立ち退き直前のかき秀のメニュー、これで千円は安い。


以上、道頓堀名物であった「牡蠣料理 かき秀」メニューが書きとめてある。
歴史の古い、「かき船」で実際に食べられていたかき料理は、「どて鍋」は有名だが、ほかのものはわかりにくいため、本書の食文化としての重要性は高い。

週刊朝日が元気だったとき。東海林さだお「カキフライはじまる」


1980年代、週刊朝日を買ったら真っ先に読むのが名物コラムでもあった「あれも食いたいこれも食いたい」だった。

十月に入って、町のトンカツ屋の店先に、
「カキフライはじめました」
の紙が貼られると、カキフライ好きは、待ってましたとばかりに、トンカツ屋のノレンをくぐることになる。


さすがに当時の週刊朝日は持っていないが、駅買いして電車の中でまっさきに「カキフライはじまる」を読んで、猛烈、「カキフライ」が食べたくなった。
「カキフライ」を意識し始めたのもこのころ(1980年代後半)だと思っている。
翌日、神保町小学館ビル近く(東京都千代田区)にあった食堂『末広(神保町暮らしをしていたら知らない人はいない、コの字カウンターだけの名店で2000年前後に閉店)』に飛び込むようにして、席についた。
『末広』では眼の前で揚げてくれるので、皿の上のカキフライの衣の間で油がぴちぴちと跳ねているのが見えた。
釜炊きのご飯にカキフライはこの上なくいい、なんて、これもオヤジへの第一歩だったかも。

東海林さだおはタルタルソースをよくまぶしてまず1個とある。
ボクはどちらかというとソースジャブジャブ派だけど、確かに甘口のタルタルソースも好きだ。


もともとカキフライ定食というものは、おかずが不足しがちなのもなのだ。

など実に都心で働く人間としてリアルを感じたものだ。
ちなみにカキフライ定食に割高感を感じるのが、ご飯に対してカキフライが少ないためだ。
このご飯とおかずのアンバランスさも都心で働く人間の共通認識であったことも想い出される。

今回、『東海林さだおの弁当箱』(東海林さだお 朝日新聞社 1995)で読み直して、東海林さだおの魅力は通ぶらないこと、固定観念にとらわれないことだ、というのがわかってきた。
「でなければいけない」ではなく、「でなくてもいい」という感じである。
カキフライにたどり着いた後、ご飯に対してカキフライが足りなくなってからの、自由気ままな感じが、これまた実に素晴らしい。
東海林さだおを読むとカキフライが食べたくなる。

写真は都内大門(東京都港区浜松町)にあるトンカツ屋のカキフライ。

村上春樹、自己とは何か(あるいはおいしい牡蠣フライの食べ方)


『村上春樹 雑文集』(文春文庫 2015)内の〈大庭健さんの著書『私という迷宮』(専修大学出版局 2001)の解説〉である。
ちなみにこの文庫本は7、8年前に神保町(東京都)で、カキフライの文章があると思って買ってしまったもので、結局読んでいない。
このとき、なんとか村上春樹を好きなりたいと、乱読もののボクは思ったのだ。
でも、やはり村上春樹は苦手だ。『週刊朝日』に「週刊村上朝日堂」の連載が始まったとき、毎週買っていた雑誌ながら、買うのをやめようと思ったほどだ。
ボクなどは文芸評論家でもなく、読書家でもないのでどうしても好き嫌いがあるし、それが当たり前だと思っているが、村上春樹のよさはわからないのは、周りに村上春樹フリークが多いので困るな、と思っている。

「牡蠣フライの話」

寒い冬の夕暮れに僕はなじみのレストランに入って、ビール(サッポロ中瓶)と牡蠣フライを注文する。この店には五個の牡蠣フライと八個の牡蠣フライというふたつの選択肢がある。とても親切だ。たくさん牡蠣フライを食べたい人のためには、たくさんの牡蠣フライが運ばれてくる。少しの牡蠣フライでいいという人のためには、少しの牡蠣フライが運ばれてくる。ボクはもちろん八個の牡蠣フライを注文する。僕は今日、たくさんの牡蠣フライを食べたいのだから。

村上春樹の文章はとても理論的に思えてならない。あまり引っかかる部分がない。仕方なく我が家で同じものを仕立ててみた。
サッポロ中瓶というのがなかなか手に入らないので、なんとネット買いをした。買った途端にそれを見つけた大風邪っ引きのときの救い神がやけに欲しそうだったので半ケース分あげた。「やっぱり瓶ビールは缶ビールよりうまいですね」という。
ボクはそれ以前に、カキフライにはビールは、やはり、やはり非常にいい、と思い、まだ風邪っ引きなので5つで中瓶にしたら、くどいようだががやけにうまかった。
ちょっとだけ缶ビールよりも瓶ビールの方がうまい気もした。
でも、やはり、村上春樹のどこか理詰めの文章に入っていけない。死ぬまでに村上春樹の世界に入っていけるようになりたい。


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