第1集
1〜100貫
第2集
101〜200貫
第3集
201〜300貫
第4集
301〜400貫
第5集
401〜500貫
第6集
501〜600貫
寿司図鑑別巻 寿司図鑑索引
八十六巻 市場魚貝類図鑑の中で寿司に仕立てたものを独立させたものです。
どこまで続けられるか未知数ですが、毎日一かんずつ紹介する「寿司日記」と思ってください。
地方の寿司、まったく寿司ネタとされないものもとりあげています。
ほとんど総てが八王子綜合卸売センター「市場寿司 たか」でのものです。
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穴貝/イボアナゴ 2006年10月25日 426
 ある日、市場まで来たら仲卸の社長が探しに来た。「早く早く」というので行くと、発泡の箱に蠢いていたのはイボアナゴなのである。これは伊豆半島から南にいる小型のアワビの仲間であり、めったに関東に来ることはない。「和歌山串本産、穴貝って書いてあるんだけど」と困っているので名前と味わいを教えるとお返しに少々分けてもらったのだ。これを煮貝にする。酒をたっぷり使って、醤油にほんの少しだけ砂糖、煮立たせないように優しーくたく。ほんの10分も火を通したら鍋にフタをして一晩寝かせてぼうずコンニャク流煮貝は出来上がる。これをたかさんに握ってもらっていたら、「なんかこの殻初めて見るな、トコブシじゃないの。味はそっくりだけど。でも少しだけ硬い。コリっとする」。説明すると「味的にはトコブシよりも好きかな。うまいね。でも硬いだろ、すし飯との相性が悪いな」。言葉を返すようだが本当に寿司ネタというものに硬さが禁物なのだろうか? ここがたかさんと意見が分かれるところ。また「肝もうまいね。程良い苦みがある」。「これはイケル!」という結論とあいなった次第。
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●八王子綜合卸売センター「市場寿司 たか」
のどくろ/ユメカサゴ 2006年10月28日 427
 沼津魚市場の底引きの競り場が赤く染まって見える。沼津佐政水産、青木修一さんと「うまそうだだよね」、「そうですね。味もいいし、値段もそれほど高くないし、いい魚ですよね」と立ち話をしたのは先月のこと。青木さんは魚の目利きだけではなく、まるで分類学者かと思うほどに種の同定能力が高い。そんな青木さんが寿司図鑑のために「のどくろ」を送ってくれて、大急ぎで握りに仕立ててみた。「底引きだから、あまりいいもんじゃないんですが、寿司でイケルと思いますよ」。これを実証するかのように、たかさんの右のほおがヒクヒクと動いている。これはうまいものを食べたときの合図のようなもの。「普通のカサゴよりも身がしっとりしてるな。これひょっとしたら脂なのかな。あ、甘いから脂だ」。その脂とも旨味からくるとも言えない甘味を舌に感じていると、ふとバリトンのジェラール・スゼーのフォーレが聞こえてくる。柔らかくて厚みがあって、しかも押しつけがましくない響きはユメカサゴの味わいに感じるものと同じだ。
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●八王子綜合卸売センター「市場寿司 たか」
煮床伏/トコブシ 2006年10月28日 428
 伊豆半島の付け根にある沼津には伊豆大島や西伊豆から様々な巻き貝が集まってくる。砂地や干潟が少なく、岩場だらけなのでほとんどが巻き貝、磯ものと呼ばれるもので、アワビ、トコブシ、尻高(バテイラ)などが山のように入荷してくる。双葉寿司ではそんな西伊豆産の大振りのトコブシを醤油味でほっくりと煮上げている。酒蒸しではなく醤油味での煮付けてあるのが沼津らしいのではないか。この握りがやや硬めのネタながら味わいに圧倒的なボリューム感があり、旨味と甘味が口いっぱいに攻めてきて破裂してしまいそうだ。その一撃のあとに今度は肝の苦みがジワリとまた口中を満たす。その怒濤の中にも酢飯の存在がさらりと感じられて消える。「これにはなにも言えませんね」とはヘンリーブロス(新しい魚貝類の流通を探っている会社)の江嶋力さんの言葉。まさに言葉を失ってしまうほどに「単純明快にうまい」のである。
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●静岡県沼津市魚市場そば「双葉寿司」
化け青目/バケアオメ 2006年11月3日 429
 まるで目光(アオメエソ)が死んで化けて出たような名前なのだが、和名の由来はまさに「お前化けたな!」という驚きから来ている。どうしてこんな名になったのかというと駿河湾などでのせいぜい20センチほどのアオメエソに混ざり忽然と大きな図体のコヤツがある。これは明らかにアオメエソではないし、というので研究が進む内に別種となったのであるがその生態、そしてお子さま時代がまったく謎なのだ。だいたいいつも見つかるのが20センチ、30センチ近い大型ばかり、不思議なことにお子さまが見つからないと言うのも研究者を悩ませている。この貴重な魚を食べていいものか、少々、躊躇はしたものの1匹だけ、魚類学研究者には申し訳ない、でも、でも頂くことにした。そしてなかなか味がいいのだ。目光には及ばないが脂がある、当然そこから甘味が来るわけで握りにしてもうまい。「化けもうまいね」とたかさんに聞くと「目光の親分はうまいね」という。「たかさん、これは目光とは別の種類だよ」。「じゃあなにかい。ホントのお化けかい。どろんどろん」。
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●静岡県沼津市魚市場そば「双葉寿司」
天狗鯛縁側/テングダイ 2006年11月5日 430
「なんだこれ? 熱帯魚かな」。もう何度も市場に入荷してきているのに、またまたテングダイを取り囲んで多摩周辺の飲食店主が騒いでいるのだ。オマケに値段が安くない。それを見て八王子綜合卸売センター「高野水産」の社長が「○屋さん、この前持って帰ってうまいって驚いていたじゃない」といらいらして声をかける。荷は大分「丸昌水産」、見事に締めているし「買って間違いなし」の魚なのだ。これを「市場寿司 たか」に進呈する。やっと珍しい魚の注文が増えたので応援の意味合いもある。さっそく握りに仕立てて、テングダイの「旬」を実感する。「いちばんいいときかね。卵もまだ親指くらいだし、脂ものってる。ああ、甘いね。それに身自体がうまい」。たかさん、うまい魚に出合ったときの喜びを放出している。でも身よりうまいのが背鰭屈筋(背鰭を立てたり左右に傾けたりする)、すなわち縁側である。噛みしめるとプルンと僅かばかり歯に抵抗して、ジワリと脂を滲み出させる。その甘味と食感が得も言われぬ。「たかさん、縁側まだあるよね」、「だーめ、これは今日いちばんうまそうに食ってくれたお客に出すんだよ」。
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●八王子綜合卸売センター「市場寿司 たか」



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