寿司図鑑 千 目次へ!
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黒鯛/イクロダイ 2005年10月13日 196
クロダイがうまいのは秋から晩春。夏は「かいず(クロダイの幼魚、すなわちオス)」はいいのだけれど大きいの(メス)はだめだ。クロダイは江戸から明治にかけて魚河岸では主役級の魚であった。これは冷蔵庫のない時代に、井戸水で生かしておけたためである。それが冷蔵運送技術が進み、また海水での活けが出始めると途端に評価が下がってしまって今では間違いなく大衆魚だろう。でも一度は華やかにもてはやされた価値は今でも充分にある。なぜなら外見は真っ黒でも身の色合いはとても美しく、また味もピカイチだからだ。『市場寿司 たか』に持ち込むと「クロダイ、ときどき使うよ。安いしうまいし、お客さんにも白身が好きな人がいるからね」、すなわちクロダイ大歓迎なのだ。これは安くてうまいが売り物の寿司屋には重宝である。川に上がるためか、ほんの少し臭みが感じられるが、これを気にするのはおかしい。むしろ風味と思える心地よさだ。たぶん今回のは河口周辺のものだろう。瀬戸内海などからくるものにはこの臭いはまったくなく、物足りないくらいだ。そしてその風味があるせいで、すし飯が生きてくる。たかさんに後2かん追加したのは言うまでもない。
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オキトラギス 2005年10月14日 197
知る人ぞ知る、うまい魚がトラギスである。トラギスにはクラカケトラギス、アカトラギスなどがあって本種もそのうまいトラギスのお仲間である。水深100メートル前後にいる小魚なので一般にはあまり馴染みがないかもしれない。見た目は悪い、まるで世間知らずの未来ある若者を悪の道に引き込む悪女のような面相、分厚く赤い唇。よく見るとゾクゾクっとするから不思議だ。身は白身でとれてすぐには旨味がない。少し置いて握りにしてみた。やや小振りながら、これがいい。甘みがあるのだけれどすぐ追いかけてくる旨味と調和する。軟らかいのですし飯とも馴染み、「いい握りができた」と『市場寿司 たか』で評価大。値段はあってなきがごとく、見つけたら買うべし。
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花咲がに/ハナサキガニ 2005年10月15日 198
根室の花咲港にあがるのでこの名がある。タラバガニ科の甲殻類で、決してカニではなく、ヤドカリの方に近い。そのタラバガニ科にはタラバガニ、アブラガニ、イバラガニモドキなどうまい食用種が多いのだが、なかももっとも生息域が狭い根室浜中釧路周辺の特産種。タラバガニ同様大型になり、味わいに独特のクセというか風味がある。これを握りにしたいなというと、寿司職人である渡辺隆之さんなど、「今頃、改めて言うんじゃないよ。ときどき握りに使っているという」。しからばと茹でハナサキのいいのを見つけて持ち込んでみる。ワサビを入れてしょうゆをつけて口に放り込んで、まず後悔した。ワサビもしょうゆも邪魔なのだ。それでなんにもなしで食べると、これがいい。甲殻類の甘い身が口の中でとろんとほぐれる。そこに濃厚な旨味がきて、すし飯とともに口中に広がる。「うまい、ハナサキえらい」というと、たかさんが冷静に「これでなんかんとれるかな? あまり儲からねーな」だって。
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舞鯛/ブダイ 2005年10月16日 199
ブダイほど毀誉褒貶の激しい魚もいないだろう。伊豆などに行くと魚屋で普通に売られているし、「うめだぎゃ」なんて言われると魅力的に感じるし、また釣り師で「臭くて食えね〜」なんて言われると世紀のまずい魚であるかのごとくも思えるのだ。これはどうも旬に関連するのではないだろうか? やはりブダイ科の魚は夏にはまずく寒い時期にはうまいようなのだ。これから秋も深まり、雪でもちらついてくるとブダイは鍋にも使えるし、しょうゆで漬けにもできる。なかなかうまいのだ。それを今回はただただ生を握りにしてみた。まだ蒸し暑い日もあるくらいでブダイの旬とは言えないようで、身は赤く脂がない。それでも握ってみて「そんなにまずくもないし、ちょっとうまいんじゃない」と寿司職人のたかさんは言ってくる。確かにまったく臭みはない。そして身には微かだが旨味が感じられてすし飯と出会うとどうやら食べてうまいのだ。これは厳冬期にもう一度挑戦かな?
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柳蛸/ヤナギダコ 2005年10月17日 200
市場に到来するゆでだこには種類が多い。非常に高価なマダコ(地だこ)、ミズダコ、ヤナギダコ、そしてもっとも量の多い輸入のタコ。なかにあってあまり目立たないながら入荷量はバカにならないくらいに多いのがヤナギダコである。ミズダコ同様北日本に多いタコでかなり大きくなる。このタコ、脚が細いためかマダコ、ミズダコよりも安くて、また人気がない。それを福島県相馬に旅して、タコを茹でているのを見せてもらい試食させてもらって驚いた。うまいのだ。当然、『市場寿司 たか』で握りにしていただく。タコの寿司というのは実はあまり好きではない。タコは噛むほどに旨味が出てくるもので、噛むということはすし飯との相性が悪いということに他ならない。やや軟らかいはずのヤナギダコでも同様にすし飯とは馴染まない。でも酢の味わいと適度な塩気、そしてジワリと染み出してくる旨味。これはなかなかいいではないか? これは江戸前寿司職人のたかさんも素直にうなずいております。
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