利根川周辺の漁 ウナギ鎌漁 02
千葉県香取郡小見川町 北総漁協 篠塚秀一さん、根本豊治さんの船にのって利根川へ
2003年10月16日 01へもどる
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河口堰の下で漁を開始する。長さ5メートル以上ある鎌を下ろす
柄に重りをつけて、船の動力で川底をひっかいていく
早朝から漁をしていた根本さん
突然、篠塚さんは重りをはずし、船をテコの支点ににしてウナギ鎌を起こす
鎌の先に白いウナギの腹が見える
鎌にしっかりと挟まれている
頭のとんがった下りウナギ
河口堰の下手では1匹しかウナギがかからなかった。隻をくぐって上流に向かう。遙か茨城県側には鹿島臨海工業地帯の煙突
巨大な河口堰の下流に集結

 船はやっと利根川に出た、ここは利根川河口堰のすぐ下流である。さすがに利根川は大きい。
「めずらしいな今日は堰が開いてる」篠塚さんが悔しそうに言う。篠塚さんは堰が開いていないだろうと見越して黒部川から来たのである。北総漁協の船だまりからは河口堰の上流であれば、利根川に直接出られる船通しの水門が目と鼻の先にある。利根川河口堰が閉まっていると、堰下流に行くためには2つの閘門(船通し)、すなわち黒部川と利根川を隔てる水門、利根川河口堰を越える必要があり、篠塚さんはそれを避けるために黒部川を下ったわけだ。
 河口堰のすぐ下流の目の前に18という数字の塔が立ち、そのまわりに10艘あまりの船が行き来している。これがすべてウナギ鎌の船である。「10隻しかないだっぺー」、「もっとあるか、知れないが、10くらいだろ」と篠塚さんが言う。北総、笹川に茨城まで加わっても10艘前後の船しかない。これが利根川下流での天然ウナギ漁の現状なのだ。
 ちなみにこの川に突っ立ている塔にある数字であるが利根川最河口に1番があり、上流に行くにしたがって2、3、4となり、河口堰の真下が18番にあたる。
「根本はあれだ。青い(緑)ジャンパー、見えるっぺー」。言われるままにその遙かに遠い船を見ていると、篠塚さんがちょいと手を挙げる。どうもこのちょいと手を挙げるのを根本さんに見えていて、「ほ〜ら気がついたっぺー」と言うことは遙か彼方で根本さんも手を挙げているようだ。根本豊治さんは篠塚さんとともに北総のウナギ鎌の名人といわれる人。
 水門を出てほどなくして、篠塚さんは長さ5メートルはありそうなウナギ鎌を素早くおろして、鎌先を川底に押さえつけるための重りを柄につるす。このウナギ鎌に重りをつけたものは非常に重く、扱いがたいものであるという。これらをひょいっと持ち上げて自在に扱い、しかも足で舵をとるがために、一本足になり不自然な体勢を続ける篠塚さんが、まさか62歳であるとはとても思えない。(篠塚さん、ごめんなさい歳をばらしてしまいました)


重りを柄に取り付ける。この重りの重量たるや半端ではない

●ここでウナギ鎌漁について簡単に述べる。鎌というのは3本から4本の鉄の柄の先に二本のかぎ爪がついたもので、たとえば人差し指と、中指、薬指を猫がひっかくように曲げる。この爪が手の中側に向いているのではなく逆についているもの。これに長い柄をつける。これだけで重さは20キロを超える。その上、鎌の柄に川底に鎌先を押しつけるための、これまた20キロ以上ありそうな重りを吊す。これが道具立て。



ウナギ鎌を川底まで下ろし、泥を船の動力でひっかいていく。夜さんざん餌をあさり、飽食したウナギは昼間は柔らかな川底の泥のお布団でぐっすり眠りについている。そんな夢見心地なところを突然鎌の悲劇が襲うわけである。当然、うなぎも「いやよ、いやよ」と身をくねらせて必死に逃げようとするが、鎌のくぼみに差し込まれたウナギは容赦なく船の中に投げ込まれてしまうわけだ。

 千葉県側である18番の周りを上り下りするが一向にウナギはかかってこない。そこで茨城県寄りに走る。ここではすでに根本さんが漁をしていて2隻は前後して上り下り、川底をひっかいていく。途中、根本さんの船が来て、オレンジ色の救命胴衣を投げてくれる。
 篠塚さんの手元を見ると、微妙に押さえつける力加減を変えている。またときにかまを上げて見えぬ川底の障害物を避けている。左舷にかまを構えて、右足でさかんに舵を蹴り、引き戻して操作している。岸を見ながら、川を下っているのだが、その描く航跡はまっすぐではない。これは泥のある場所、砂地、障害物とあって、ウナギの一番いるであろう場所を探っているからであろう。
 なかなかウナギはかかってこない。どうも他の船もウナギをかけているようには思えない。漁を始めたのが8時前で、ケータイの時計を見るともう9時。このとき篠塚さんの手の動きに微かに変化が見て取れる。
 ゆっくり重しをはずして、ウナギ鎌をたぐり上げる。船縁をテコの支点にして、なめらかに鎌先を持ち上げて水面をなでるように船の胴に回す。3本かまのひとつにウナギの白い腹が見える。胴の部分でかたんとたたいてウナギを落とすと、小振りながら明らかに頭がとんがった下りウナギである。この頭の形状は泥にすむウナギ特有のものである。
 午前10時まで堰の河口でがんばったものの船の生け簀にはたった1匹のウナギだけ。周りを見ると船の数は半分ほどに減っている。篠塚さんは、船を上流に向け、河口堰をくぐる。茨城側の彼方に鹿島臨海工業地帯の赤と白の煙突が見える。

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