駿河湾を代表するうまいカニ(タラバガニかであるが、表記はカニとする)。 沼津ではオスメス絡み合って(ちょっとエッチな表現ですまんすまん)揚がってくるので「夫婦がに」なんていうし、焼津では「たらばがに」という。 静岡県焼津・長兼丸 イバラガニモドキ (タラバガニ)漁 2004年4月17日 エゾイバラガニ 目次/市場魚貝類図鑑/静岡の目次へ |
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ガラガラの東名高速、焼津で下りたのが3時。長兼丸の着岸している小川港に着いたのが3時半。クルマをおりると東風が吹く。少しも寒さを感じない。4時になって軽トラックで長谷川久志さんと隆嘉さんが到着する。 「もう出ますよね。急ぎますから」 と聞くと、 「もう一人来るから」 ほどなく現れたのが東大海洋研の皆川君。すらりと背が高くて、色白の一見ひ弱に見えるのだが、後々彼の芯の強さというか、底力を見せつけられる。今、ウナギ目の研究をしている。 東風で海上は波立っている。少々、不安を感じながら沖に出る。皆川君の顔色が青いが、きっとこちらも同じ状態だろう。風を真横から受けるとかなり大きく船がローリングする。 5時前には明るくなって、操舵室を出る。暖かい、赤い太陽が遠くにぼんやりと浮かんでいる。中天は晴れているのに、白い雲が低く沈んでいる。富士山も伊豆の山も見えない。隆嘉さんに聞くと、これは、この時期特有のものだそうだ。 「どっちがどっちのブイだかわかんねな」 久志さんが海上を凝視してこまったように呟く。これはカゴの仕掛けが南に大きく流されてずれてしまっているということ。それでも仕方なさそうにカモメのくちばしでがたがたになったブイを船上に取り込む。 このロープを隆嘉さんがウインチに巻き付けて、ゆっくりゆっくり巻き上げていく。巻き上げたロープはかごに入れるのだけれど、だいたい200メートルほどでカゴいっぱいになる。これを久志さんが抱えて船尾に運ぶ。3カゴがいっぱいになって、最初の重りであるクサリが揚がった頃から久志さんが首をひねり初めた。どうもカゴが絡んでいるようだ。こんなときに無理に引き上げるとロープが切れてしまうことがあるようだ。すこし様子を見ながらゆっくり引き揚げて、久志さんはロープと格闘するが、そのうち最初のカゴのロープが切れてしまう。 「潮が速くて南に流されている」 ここまで引き揚げたものをあきらめてロープを放し、もうひとつのブイを引き揚げる。 こちらの巻き上げは順調である。すぐに1個目のカゴが揚がってくる。残念ながらこれは空振り。エサのマグロの頭が骨だけになって標本のように白い。2個、3個、4個と揚げるカゴにはまったくミルクガニ(エゾイバラガニ)は入っていない。 「こまったな。こりゃー注文分もあぶないな」 揚がってくるカゴにはまったく獲物の影がない。ほとんど半分近くのカゴがあがったときにやっと揚がってきたのがタラバガニ(駿河湾での方言で標準和名でのイバラガニモドキ)である。2つに一つは入っているものの多くて2匹、しかもタラバガニばかりである。 「今日はミルクガニの注文がいっぱい入っているのに」 久志さんはしきりに首をひねる。ほんの少しカゴが流されただけで、これほど漁に影響が出るわけだ。ミルクガニも混ざってくるようになったものの、今日は明らかに不漁である。結局、船上にはタラバガニ(イバラガニモドキ)15匹、ミルクガニ(エゾイバラガニ)15匹の小山ができた。 イバラガニモドキは駿河湾でとれる「カニ」ではもっとも美味なもの。もちろん値も高い。漁の後で1ぱいだけいただいてきた。これをあれこれ堪能させていただいたが、タラバガニ科の仲間のなかでも屈指の美味であることを改めて思い知った。長兼丸がとる駿河湾の味覚としてはぜひ一度味わってもらいたいもののである。 ●ミルクガニ(エゾイバラガニ)の食べ方などは 市場魚貝類図鑑のイバラガニモドキへ 購入するには、 静岡県焼津市の長谷川久志さん(長兼丸)にメールにて。 E-mail/tyoukanemaru@thn.ne.jp |
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