NPOは住民の味方たりうるか 県の浦戸湾砂漠化計画を暴く 浦戸湾を守る会 下司孝之 Takayuki Geshi |
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→埋め立て予定地の灘地区 |
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鯨去る行方を灘の霞かな 島崎藤村や樋口一葉、与謝野晶子らと親しく交わった高知市在住の馬場孤蝶がかつて、高知市浦戸湾の横浜地区にある灘の海を詠んだ一句。 埋め立て寸前までいった騒動は県港湾局が昨秋、国分川浚渫廃棄土砂の捨場に灘を選んだのが始まり。灘というだけにあって潮流があり、航路の方にずり落ちてしまう場所に「干潟作り」と称しての覆砂計画だった。 パルプ会社廃液を止めた「生コン事件」から30年余り、浦戸湾に自然の回復がみられる今、また覆砂するというのだ。 灘に生息する県指定の絶滅危惧種、マメコブシガニやルビーの眼を持つアカメの稚魚を守るために浦戸湾を守る会は、町内会と別に昨年10月から反対に立ち上がった。 結局、港湾局は3月1日、地元町内会らの了解が得られないとして中断を発表した。 国の補助金がまず問題 浦戸湾流入河川の国分川改修工事で出た土砂を灘に捨てて輸送費を浮かし、国の補助金を獲得、干潟を作って市民の親水空間を創出し、もって水質浄化を図るといういささか調子のいいプランだった。 「水質浄化のため覆砂」はまやかしで、例えば「平和の為の戦争」のようなものだ。 覆砂によるヘドロの封じ込めは、一時的な水質の向上が得られても生物環境は悪化し本来の自然が持っている自浄能力を奪い、生物にとっては砂漠に住めといわれるに等しい。人工砂浜を作っても希少種のいる海に砂漠ができるだけで豊かな泥の干潟は拡がらない。 海水の浄化をいうならば森林保護、ダム建設にともなう汚濁や、河川工法の変更、浦戸湾に注ぎ込む七河川の生活排水改善、湾内アマモの育成を抜きに語れない。 県は今までにも「浦戸湾ウオーターフロント開発計画」で衣ヶ島周辺に覆砂していたが、水質は良くならず、漁業者は「エガニ(トゲノコギリガザミ)もハモも捕れんようになった」という。 県主催討論会で高知大学理学部町田吉彦教授の指摘はとどめの一撃だった。住民への説得の水質改善が、東京湾にもない高いCODの値が覆砂により改善という数字は、別に高知市が計測している同地域の値とも異った有意でない数値と指摘したのだ。 橋本知事の対応 橋本知事とは1月15日に県庁知事室で浦戸湾覆砂・埋め立て反対の陳情を行なったが、知事は陳情そのものに対して違和感があるといわれた。 「この問題は元々、市民からの要請を受けて始まったことであり県に対して中止を求めることは筋違い、要請している市民団体(高知NPO・浦戸湾みらい会議)と話し合ってほしい」とのことだった。 こういう陳情のやり方は、古い形の運動のやり方だともいわれ、市民同士の話し合いの結果次第では、覆砂工事を中止することもありうるとのことだった。 「僕はどちらでもいい」と工事にゴーサインが出ている段階での知事発言は当事者としては無責任だ。元々今回の事業を言い出したのは知事で市民から始まった話ではない。 高知放送大二郎Sワールドの2001年5月20日放送「市民が考える明日の浦戸湾づくり」で当のNPOを前に「行政がいうと叱られるからNPOに期待する」と示唆している。 新しいの最先端である、NPOは政策対話型、政策提言型の市民運動として行政にとって御しやすく有益と考えているのなら、それは問題だ。 古くからある我々の住民運動は地を這い、明解に政策にノーを突き付け、補助金も受取らず、また開発の仕組にものらぬ告発型、対決型と知事は分類しているのだろうか、いみじくも知事がいう新旧のスタイルのなかにある違いの本質をつかんでいきたいものだ。 今回県は「親水」という目くらまし爆弾と、津波対策への影響は無いとシュミレーションで語り防災面で説得を試みたものだった。 「親水」なる比較的耳新しい言葉は、海浜フロント計画が盛んだった頃から使われ、開発への合意サインを意味する造語だ。 行政とNPOの関係のあり方 なる程、市民の提案した工事だというNPOを楯にした手法は新しいものだった。 県議会で浦戸湾覆砂に関して共産党の米田県議に突っ込まれると、「NPOの発案で我々ではない」としきりに答弁している。防災面で市民の反対が起きると考え、NPOにクッションの役目を求めた。しかし防災面からでなく、環境面からの反対が起きるとは夢にも思わず、面食らったようだ。 市民参加の「みなとまちづくり」 をめざして、で「浦戸湾みらい会議」の坂本導彦代表世話人が「従来の行政主導方の公共事業から市民参加型への転換をはかるにはNPOがコーデイネーターを果たす事により行政と住民が対峙する関係から、共に課題を克服し整備をすすめる新しい公共の形が生まれるのではないかと考えます」と言っている。 行政の意向を先回りして、提案すればそこに公共事業が待っている、今回の覆砂事業は、県もNPO も調査もないままに県が事業を受け入れお粗末のかぎりだ。だが県は「これからNPOが切り札だ」といっている。 NPOとは非営利でごく小規模なボランテイアなど庶民の真面目な法人というのが大方の県民の認識だった。しかし、浦戸湾覆砂事件にみるNPOとはなんだろう、補助金を貰うNPOが住民の味方に立てるのか。 この不景気に商売の契機を求めて様々な方々がNPOに関心を示している。詐欺師の立ち上げたのを「サーPO」、暴力団のを「ヤーPO」、ゼネコンは「ゼネコンNPO」などと巷で噂している程だ。管轄の法務省も遅ればせながらこの1月に悪質なNPOの取り消し等を発表、主旨とかけ離れたNPOが多く出来ているが峻別する規準があるわけではない。今高知県では続々と百を越すNPOが誕生をしている。実績もなく、住民運動から立ち上がったものでもないので、県民へのサービス低下につながらないか危惧する。 2月24日付の新聞によると橋本知事は県議会での所信表明で「住民力」で地域づくりをすると表明、NPOの存在を重視、県庁業務の3割から5割をも外部委託にし、NPOも活用とぶち上げた。破綻の県財政を考えるときではあるが、それが全面委託化であり、しかもNPOを活用しては大丈夫か。 現状はお上が偉く、NPOを下請化している。県庁が本気でNPOと仕事をするのなら市民にまで情報公開、姑息な手段で受注さすのではなく公平な入札制度に改めていくべきだ。 NPOの裏営利に注目 特に今回の浦戸湾に砂を捨てる計画(シーブルー計画)は大型のNPOが提案して、多額の県費を使うことであり、NPOの下部組織として県が認識するところの任意団体を土建業者が主導している様子で、如何なものかという議論が巻き起こった。 業者がNPOを組織してはいけないという法律はないが、利益を得るためにこそ質のいい業者の仕事が有るはずで、ボランテイアにできる仕事は限られている。 疑問に思ったのは住民への説明会で県と同じ側の机に座っているという当該NPOの無神経、県が強力な反対にあうやNPOが住民との調整役としての機能を放棄してしまったこと。情報公開がNPOの設立要件でありながら問題が起こるとネットの書き込み欄ばかりか、「浦戸湾みらい会議」さらにはNPO本体のホームページまで閉鎖してしまったということは業者としてはモラルに欠け、NPOでは無責任、住民運動ならしない感覚だ。 利益を追い求める為のダミーとしてのNPOであったといわれても仕方がない。 自然保護運動を名乗りながらわざと的を外した運動を構えて自然破壊への役割を担い、県から金を引き出すというケースはこれからもあるだろう。 浦戸湾を守る会は、NPO法人のように、法務省にお墨付きをお願いしたり、毒饅頭にもなる補助金をもらう立場でもなく、対等に行政にもの申す為の矜持として、古いタイプの住民運動を守る。智恵あるものは智恵を、金のあるものは金を、動けるものは動くというあり方でいい。会員名簿を提出して、事業計画や定款を整備して、行政補助金にありついたり、事業にありついたりする会でなく旧来のスタイルで十分、NPOになる必要はない。 そもそもNPOの法的整備は住民運動の分断囲い込みとして政府・財界サイドの思惑でなされたと私は思う。補助金行政は、新しい利権集団を常に発生させる温床となっている。 今回のように工事費は出ても調査費をつけない補助金や工事のあり方は改めてもらわなくてはいけない。 もちろん、その中には積極的な働きをし、あるいは思惑を超え、彼等の体内で内蔵を喰い破って活動する NPOもあるが、会員名簿を提出しなければいけない運動に馴染まないものもある。例えば、人権弾圧に対する「救援連絡センター」は NPOを取得するはずもない。 |
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