千葉県外房和田町
クジラの旅 02 2005年7月29日
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深夜2時半過ぎに明かりがともり、このときから多くの見物客が集まり始める。沖合にクジラ、これをウインチで引っ張ってくる
皮から引きはがし始めて赤身を切り離し、ブロックにして解体は始まる。そして5時15分にクジラの販売が始まる
05/07.29 ツチクジラ解体

 28日の夜1時に出発。がらがらの首都高をあっというまに千葉に入り、湾岸習志野でおりてお馴染みの16号線を南に下る。左折鴨川の標識を見て山越えの久留里への道、まったくわけのわからん鴨川有料道路の料金200円を支払、鴨川にでる。鴨川から南に走ることほんの少しで和田町に入る。和田港には何度か来たことがあり、漁協の建物までたどり着いたのが2時15分。港をぐるぐる回るが解体所の位置がどうしてもわからない。港のはずれに明かりを見つけてやっと場所が知れた。
 解体の場所は港に入ってすぐの木造の切り妻造りの簡素な建物。建物の地面板敷き、そしてコンクリートの斜面となってそのまま海面に落ちている。建物の先は和田港の港内に続く。建物の脇には発砲スチロールの箱やバケツが並んでいる。
 2時半近くにクルマが建物の敷地に入っていく。建物の端っこの明かりがともり、またクルマが入っていく。大急ぎで明かりの下まで駆けていく。そこで解体作業自体は3時ちょうどに始まること、クルマは敷地内に留めてもいいがときに混雑して出られなくなるので解体所から川を隔てた場所に止めた方がよい、などを聞いて慌ただしくクルマを移し、撮影の機材を身につける。
 建物に明かりが煌々とともる。これがちょうど2時半。エアコンで冷やされた車内から出るとメガネが曇る。これは霧だろうか、湿度が高く、身体がべとべとする。新聞社の人、見物人、またクジラを買う地元の人たちが解体所(ここを地元の方はクジラ場という、以後クジラ場と表記する)に詰めかけてきた。
 3時近くにクジラ場の床をまんべんなく濡らす作業が行われる。それから海に伸びたワイヤーがあってこれを手に持つ人はじっと沖合を見つめている。その視線の先、港へ続く堤防にぽつんと明かりが見える。この明かりの下にクジラが繋留されているのだ。ワイヤーが巻き取りを開始してほどなくツチクジラの黒い影が見えた。思ったよりも小さいなと感じたが、ほっそりした体形で、体長は10メートルを超えているのかも知らない。クジラが揚がるやプロアマ混ざり合ってのカメラマンが一斉にストロボを光らせる。
 くびれた頭がアカボウクジラ科の特徴で口はクチバシ状に伸びている。腹は開いてあり、だらんと流れ出しているのは腸だろう。
 ここで体長が計られ、撮影。これから解体が始まる。解体はまず手(ヒレ)を切りはずし、頭から尾に向けて縦に大包丁(おおぼうちょう)で切れ込みが入る。この切れ込みに大包丁を入れて頭に近い部分をかぎ(てかぎ)で引きながら皮を剥がす。ある程度剥がれたら、ここにワイヤーを通して、引っ張りながら大包丁を使う。皮がめくれあがって、そして出てきたのは赤身にあたるところ、すなわち身の部分だ。ツチクジラには皮の白い部分と赤身しかなく、解体は非常に単純である。
 クジラ場の脇ではツチクジラの歯、精巣などの部位、また体長や脊椎骨など細かく計測、記帳している人がいる。この方、非常に忙しくなかなかゆっくり話が聞けない。いったいどういった機関がこれを調べているのだろう。
 皮の部分は熱さ20センチほど一辺が40センチのブロックに整形される。これはすぐに冷凍され、加工業者のもとに売られていく。昔は大阪など関西に送っていたと言うが、現在はこれといった大口の取引先はないという。
 赤身はこれも一定の大きさに切られて血抜きのためか、氷水に漬けられる。これを水切りすると販売できる状態となる。
 解体が終了したのが5時前。ちょうど2時間を要したことになる。クジラ場の一角に黒板が出て「本日の鯨肉の販売時間 05 15ヨリ 販売致します」と出て、地元のおばさんたちが並び始める。クルマで大きな青いバケツを持ち込んでいるのは業者だろう。計りが2台並び、切り分けた赤身はどんどん売られていく。赤身はここで総て売られて地元だけで流通するのだ。
 値段は1キロ2700円ほどと決して安くはない。市場で売られているミンククジラの赤身が2500〜6000円ほどなのと比べてもむしろ割高かもしれない。

 乳白色の霧の中、防波堤の先まで歩く。本日解体されるのは2頭。港にもう一頭浮かんでいるのだ。そこにはすでにクジラをのぞき込んでいる人がいる。港内はややうねりがあり、真っ黒なクジラは静かに波に揺られている。なんだかここだけが音からも時間からも遮断されている。ボラの子が黒い小島を飛び越えて行く。



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