2005年4月7〜8日
大坂の旅 04
鶴橋市場
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鶴橋に多いのがキムチの店とチヂミを売る店。店先には韓国の俳優のポスター
いい肉売っているなと思っていると牛肉の品揃えを見ていると店の前に様々なホルモン。こっちのほうがうまそう
キムチ屋や韓国食材の並ぶ通り。入り口にはシロアマダイの干物が売られていた
魚にはマダラの胃袋に鰓
寿司折りがなが〜く並べられている
天ぷら屋のおばちゃんと、すんごいうまい天ぷら。「味ついてますからね」
キムチを売る店は数知れず。どこがいいのか目移りして、おばちゃんの険しい物言いに、買うのを諦めました
ここがどうも鶴橋地方市場。10時を過ぎていて、ちょっと遅すぎたようだ
05/04.07 大阪の旅04

 予め決めていた予定では大阪中央卸売市場から木津市場に出て、正午には泉佐野に向かう予定であった。それが中央卸売市場で長居しすぎたことで木津の市場はとりやめ。また強い低気圧のせいで大阪湾の船は一隻も出ていない。今日、泉佐野に行っても魚は見られないのだ。しかたなく予定変更。鶴橋市場をめざす。
 千日前線玉川から鶴橋までは思ったよりも近い。8時半に地下鉄に乗り、午前9時近くに鶴橋の駅に到着。人の流れについて地上に上がるとそこはすでに迷路の始まりであった。迷路の入り口にはいきなり韓国でのお好み焼き「ちぢみ」を売る店、なんだかやたらうまそうな立ち食いうどん屋。その先にはチマチョゴリを売る店がある。
 畳敷きの店内一杯に華やかなチマチョゴリが飾られ、そのシフォンの透明感のある色彩にそこだけが明るく感じられる。韓国のステンレスの食器の店、また「ちぢみ」の店があって、韓国ドラマのポスターに、娘がたぶん韓国の俳優の名前を発して大騒ぎしている。そして迷路はどこまでも続いている。

 予め、書いておくが、今回、鶴橋には来たもののまったく予備知識はなく、いきなりたどり着いたというのが偽りのない事実だ。「コリアタウン」「国際市場」「鶴橋市場」「鶴橋地方市場」など様々な迷路を作り出す市場があり、結局、そのどこを歩いているのかもわからないままさまよってしまった。この鶴橋の迷路は朝鮮併合で日本に来た在日朝鮮人の方の日常品を売る店と、戦後の闇市からいつのまにか出来上がったマーケット群であるようだ。
 現在の靖国問題や過去にあっただろう在日朝鮮人への差別など、この街を語るとき様々な問題が浮き上がってきそうだ。今回はそれを取り上げるには目的が違いすぎる。ただ私的には「殴った方はその行為をすぐに忘れるが(例えば小泉首相のように)、殴られた方はいつまでもその事実を忘れない」のは当たり前だと思っている。
 そこにあったのは「驚き」であり、「懐かしさ」であり、ちょっと「感動」ですらあった。あまりのおもしろさに、よけいにまとまりを欠く旅日記(本当はメモの延長線でしかないが)となりそうで恐い。ちなみに自由に住処を決めて良くて、どこがいいかというと、この迷路群のどこかに住みたいと思うほどにこの街、この通り、路地が好きになったことは間違いない。

 迷路を奥に進む。どうも地下鉄千日前線鶴橋駅を出て東に進んでいるようだ。ニンニクと香辛料の鋭角的な匂いがして、たぶん南北にのびる路地に出た。その一角にはキムチを売る店、またキムチを売る店、魚屋。この魚屋にはマダラ、キグチ、スズメダイからマダラの鰓、胃袋まである。塩辛やコチュジャンを売る店が並んでいる。そこから南(?)に歩くとアーケードが切れて住宅地となっている。その出口にはシロアマダイの干物を干して売っているお婆さんがいる。キムチでも買って帰ろうかと何軒かのぞいて、キムチ一種類の袋が多すぎること、それと大阪ならではのはでなおばちゃんがちょっと恐くて諦める。
 そのキムチ屋の並ぶ通りからまた東に進むと、狭い路地に豚の顔、耳、足に丸ごと鶏を茹で(?)たものなどを売っている店。そして一見普通の肉屋さんがあり、通り過ぎようとして何気なく店先を見ると牛のハチノス、センマイや何種類ものホルモン類(内蔵)が並べられている。「そうだ鶴橋は焼き肉で有名なんだよ」と娘に話しかけると、勝手に奥へ奥へと入って行くではないか。
 そして一際狭い路地に餅などを売っている店があり、若い女性が並んでいる。この餅を売る店もどことなく日本の和菓子屋とは違っている。円盤形の白い餅に粒あんがのせてあるものがいくつも積み重ねられている。よもぎ餅に黄粉、白餅、黄色い餅は粟だろうか? 奥には羽釜のようなものがあるのは、ここで作っているんだろうか?
 その路地からまた東に進むと木の皮が段ボールの箱に刺さっていて、これはたぶん肉桂。北東の道にぶつかる。こんどはやや広く原付バイクや自転車で行き交う人が多い。ここには漬け物、麺、蒲鉾や練り製品、かつお節を売る店などたくさんの食料品店が並んでいる。見上げると「本通り」の照明看板が下がる。この通りなど昭和30年代そのもの。なんだか鳥肌が立つほどに、うれしさがこみ上げてくる。店の造り、看板、売り手の顔つきまで、懐かしいというか、大大大好きな情景。こんな街がここにあるなんて、本当にこれは現だろうか。
 この「本通り」でおいしそうな天ぷら屋さんを見つける。天ぷら、コロッケ、豆腐や油揚げ。奥に薄っぺらいえび天があって、これは大阪特有の天ぷらうどんにいれるもの。おばちゃんにお願いして、普通のえび天、蛸のてんぷらを透明プラスティックの器に入れてもらう。
「これは味がついてますからね。今食べるの、それなら切ってあげるわ」
 と手渡されたので歩きながら食べる。これがまたうまいのだ。蛸が軟らかく天ぷら自体につけられた味つけがいい。もっと買っておけばよかった、考えてみるとコロッケもあったよな、なんてと後悔する。
 ここから東に行くと、たぶんここが鶴橋地方市場であろうと思われる水産物中心の市場になる。市場内は薄暗く店一軒あたりの間口はそれこそ一間幅くらいしかない。その一間一間に白熱灯がともり古めかしい帳場がある。もうすでに10時になっていて残っているものは少なく、ほとんど空のバットだけとなった店が目に付く。ただ残っているものを見る限り、なかなかいいものがある。ここでは当然、アナゴ、トラフグ、シマフグ、シロザメやじゃこえび(アカエビ)、しらさえび(ヨシエビ)などがある。
 幾筋かを行きつ戻りつしてていると市場の出口にイカナゴのくぎ煮を売る総菜店。そしてまた賑やかな声が聞こえてきて、「本通り」にもどったようだ。まったく行っても行っても面白そうな店が続き切りがない。娘の心斎橋に行きたいという目的がなければ、「このまま夕方までいたい」と後ろ髪を引かれる思いで、もう一度地下鉄に下りる。

 今回、痛切に思ったことは、朝から夕方までじっくりここを見て回りたいということ。小さな店のひとつひとつが魅力にあふれ、路地の一本一本に捨てがたい風情を感じる。こんどは必ず、朝から来て、昼ご飯をこの街で食べて、また街を歩き夕方、お総菜を買って、新幹線で帰ってきたいなんてできないだろうか?



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