ぼうずコンニャクの魚貝類を探す旅 2004年10月7日
三河の旅 05 毎味水産(ことみすいさん) ●毎味水産のホームページへ
2004年8月7日から翌8日まで、愛知県幡豆郡一色町を旅しました。

三河の旅目次へ! ■市場魚貝類図鑑 
毎味水産社長の藤井務さん。もうエビを扱って40年になる
シバエビを箱詰めしている。東京湾の芝沖でとれたことから「芝海老」なのであるが、関東に来るのは有明海、三河などと、輸入もの
工場内は近代的で身震いするほどに冷やされている。ここで冷凍むきえび、無頭の冷凍天然エビなどが製品化される
近代的な工場から、昔ながらの手作業が生きている第2工場へ。この作業は明治以来変わっていない
小エビの頭をとるのはまったくの手作業
04/10.07 05

 毎味水産は一色魚市場から目と鼻の先。実をいうと巨大なその建物は周辺のどこからでも見ることができる。
 毎味水産を紹介してくれたのは東京築地の水産会社なのであるが、一色という土地柄から一般的な荷主(地元の仲買・水産会社)さんだと勝手に決め込んでいた。だいたい毎味水産のことを聞いたのが出発の前々日であり、慌ただしくてどんな会社であるのかなど気にもかけなかった。ただエビを取り扱っていること、地元のエビのことにも詳しいということだけを聞いてここまで来たのだ。もちろんこれがいつものことであって、私流なのだが。
 車を建物の前にとめて、来たままのジャージー姿で会社のドアを開ける。ちなみにこのジャージー姿は退院したばかりで仕方なく着ている。明るい秋の日差しが事務所のなかに充満している。水産会社ではあるがいたってありきたりのオフィスであり、来意を告げるやすぐに社長の藤井務さんが両目にいっぱい笑いじわを見せて出てきてくれた。年齢は50代になったばかりだろうか? 小柄でにこやかではあるがどこか精悍な雰囲気がある。

「一色の市場は見てきたがか」
 驚いたことに名刺も待ってきていないのにエビの話を持ち出すと、どんどん答えてくれる。とくに「あかしゃ」という小エビ、シバエビのこと。そして輸入エビと生の国産エビの比率。実をいうとここでぜひとも知りたかったのが毎味水産の業務内容なのであるが、シバエビのことから突然工場内を見学することになった。
 長靴に衛生帽を渡されて、早足の社長に着いていくが、なかなか追いつかない。工場は入るとひんやりと肌冷たい。
「今日はシバエビが少にゃーけ」
 いつの間にかシバエビの箱詰めをしていた女性の手助けをしていたかと思うと、今度は無頭の輸入エビの加工の場所に入り、解凍して発砲のトレイに詰めるまでにされる行程を見せてくれる。この隣ではスーパーなどでよく見かける冷凍むき身もベルトコンベアーの上を急速冷凍されて転がっている。
 一色は全国でも有数の国産エビの産地であるし、周辺の知多半島まで含めると漁獲量は大変な数量となると思われる。その生エビの加工も毎味水産にとって大きな比重ではあるが、やはり国内生産されるエビは足りないようだ。今では毎味水産水産でも輸入のエビの加工が7割方を占めている。

 後日、毎味水産の製品が東京で買えるかとデパートなどを見て回った。デパートにも近所の西友にもなくて教えてもらったサミットに行くと間違いなく毎味水産の発砲トレイのエビが見つかった。そして休日、我が家からいちばん近い大型スーパーで冷凍水産物を見て回ると。3種類の製品があった。この中の無頭の冷凍エビ。実をいうと無頭のエビを買うのは初めてに近い。もちろん味わいはかなりのもの、冷凍エビを見直す思いであった。これを八王子の冷凍食品を扱う業者やスーパーの経営者に聞くと、今やこの無頭エビというのは冷凍エビの分野では主流となっており、寿司屋などにも好評なのだという。

 工場からもどって今度は国産の小エビや一色でのエビのことになると、今度は第2工場へと案内してくれる。この間も藤井社長は走るがごとく歩き、その歩みはやたら軽そうだ。思わず年齢を聞いてしまった。
「57だ」
「昔からエビの加工をやっていたんですか」
「いや19から。それ以前は漁師だ。漁師をやめての、ちょっと水産会社に勤めて、今の会社を始めたんだ」
「『毎味(ことみ)』って珍しい名前ですよね。なんかいわれはあるんですか?」
「違う、違う、坊さんに頼んでつけてもらった」
 この19歳の頃の藤井社長のことを後で海老せんを製造販売する「青山」で偶然に聞くことになる。

 若き日の藤井社長は水産会社に勤めていて、一色などでとれた小エビをトラックに積み「青山」などに納めていく、それで一色中をまわって残った分はかってに「青山」に置いていったのだという。どうもこれが営業マンとして藤井社長の若きころの姿であったようだ。
 毎味水産本社から来るまで数分のところにある、第2工場は本社とは違い簡素な建物。中に入ると本社工場とはまったく違う光景があった。かなりの広さの工場内に平台が並び、それぞれに小エビの山が出来ている。その小エビの頭を手作業で取り除いている。工場の入り口には小エビを入れた発砲の箱が並ぶが、当日のものは淡路島から来ている。
「一色では足りんでの、今は全国から持ってくる」
 箱の中には鮮度抜群の小エビが入っていてすべてアカエビ属である。
「シバエビでもサルエビでも、鮮度がええもんはなんでも仕入れる」
 というのだが、この鮮度で国産ではかなりの高値も致し方ないように思われる。
「これが全部、坂角に行くわけじゃな」
『坂角総本舗』は明治22年創業の愛知県東海市の老舗であり、「ゆかり」という海老せんは、今や愛知を代表する味わいである。その坂角の商品説明にもある「あかしゃえび」が目の前で加工されているのだ。ときに東京のデパートでもついつい買ってしまっている「ゆかり」がうまいというのは、この原料にあるのは明白であり、三河湾一色や知多半島豊浜、淡路など浅い場所でも底引きのある地域の小エビのかなりの量がここに集まって来ているといっても過言ではないだろう。
 三河湾では昔は利用しきれないほどの小エビがとれた。とれすぎたエビはときに畑の肥料となったというのだからすごい。この無際限にとれた小エビを海老せんに加工するようになったのは明治時代の中期である。この海老せんの原料の小エビは水揚げされると頭を取り、皮をむくために各家庭などに送られる。ここで家族総出でむかれた小エビがまた海老せんを作る工場に集められるのだ。毎味水産で見られた光景は、昔ながらの一色の情景であり、今でも各戸で頭をとるものもあるという。毎味水産では昔ながらの一色でのエビの頭取りから、輸入エビの冷凍加工まで見ることができる。

 取引相手の坂角を差し置いて「一色でいちばん海老せんのうまい店はどこですか?」というのに、
「まあ坂角は最高じゃろうけど、ここなら青山かな。地元ではいちばんうまいと思うな」
「行って来いよ」というのを無理に青山まで案内をしてもらった。大会社の社長なのにこんなことお願いするのは失礼だなと思いながら、結局、にこやかな笑いじわに甘えてしまった。どうやらこの藤井社長のパワーは、この笑いじわに隠されているのかも知れない。
●続けて「海老せんの青山」のページを見ていただきたい
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