2004年10月7日
三河の旅 03 一色で魚を買う
2004年8月7日から翌8日まで、愛知県幡豆郡一色町を旅しました。
三河の旅目次へ! ■市場魚貝類図鑑
 
岸壁、競り場の前が仲買の店舗。扱う品物はすこしずつ違っていて、店の特徴が出ている
天然クルマエビがこの値段で買えてしまう。築地や関東の市場なら1本で600〜700円はする
一色では小エビのことを「あかしゃ」と呼ぶ。これは一種類のエビのことではなくアカエビ属のエビの総称であるようだ
カワハギやネズッポの中にぽつんと珍魚チョウセンバカマ
超ハデなベニテグリ。これは底引き網のある港でしか見られない
一色ではギンアナゴのことを「あなご」、マアナゴのことを「めじろ」と呼ぶ
エイのひれ、穴子や、フグなど干物の品揃えは充実。おなさかな広場にて
堀淳さんの
『一色市場へようこそ!』へ!
04/10.07 03

 そろそろ5時半である。今年は暑い10月なのだが、さすがに辺りはひんやりしている。小鳥の声が聞こえてきて、いつの間にか仲買の店舗は人盛りがしている。これが有名な一色の朝市というものか? ここで地元の堀淳さんと待ち合わせている。「魚清」はどこですか? 堀さんは魚清の前で待っていてくれるはずだ。面白いことにこの仲買の店舗には屋号を示すものがほとんどない。端っこから聞いて中程を過ぎたところが魚清であった。
 そこで飯塚さんと立ち止まっていると「ぼうずコンニャクさんですか?」と張りのある声が聞こえた。がっしりした体つき、髪はまだ黒味を残している。上着のブルゾンは濃紺であり、そのメガネの奥の含羞を含んだ眼差し、鼻梁のくっきりした顔立ちともども頑固であるのがわかる。ただ市場を案内される内にこの頑迷そうな老人(失礼ですが)が好きになってしまうのは、そこから浮かんでくるお人柄による。ぼうずコンニャクの欠点のひとつが思ったことをそのまま言葉に出してしまうという、言うなれば大人げないところなのだが、この方なら率直な意見や情報を交換できそうである。
 仲買に店舗に並んだ商品はビックリするほど安い、そして多彩である。値段は高くても木箱いっぱいが1500円、安いものなら300円なんてものまである。飯塚さんは天然クルマエビのあまりの安さに言葉を失ってしまったようだ。
 ここではベニテグリ、ヨメゴチ、ネズミゴチはともに「めごち」として売られている。「ひらあじ」がカイワリで、「てつ」がイラである。堀さんの『一色市場にようこそ !!』ではテンスも「てつ」となる。高級魚、アラもアカムツもここではキロ2千円しないで売られている。ギマ、カワハギに木箱いっぱいの小さなメイタガレイがなんと300円。
 小エビの「あかしゃえび」、ヨシエビ、サルエビもまだぴんぴんはねているのがいる。それで800円とは驚きも数倍となる。
 ここで飯塚さんが見つけてくれたのが珍魚チョウセンバカマ。これは現物を見るのは初めてだ。シマセトダイに続いてチョウセンバカマとは、これは幸運というべきか一色がすごいのか?
 この中には矢作川でとれたと思われる、モクズガニとシジミも見える。モクズガニは河川の河口域では秋の味。豊かな川が流れ込んで三河湾の豊かな魚貝類が育まれるのだとうのが、こんなところにも見られる。

「奥にね、おなさかな広場というのがあります。そっちも見ましょう」
 堀さんに先導されて、こちらは真新しいプレバブの建物に向かう。入るとかなりの人混みがしている。入り口の魚清(こちらは仲買とは別の店)でメガネウオとキビレミシマ、ザルガイの木箱がある。これはなくならない内に買ってしまう。これ全部で1000円でしかない。この広場には八百屋もあり、それもなかなかいいものが置かれている。こんどは野菜もじっくりと見て回りたい。
 一色の魚貝類の膨大なこと、それに没頭している内に徐々に疲れが頭脳の奥まで回ってきて。目の前の光景がユラユラと揺れる。そんなときに堀さんからありがたい言葉が!
「朝食を用意してますから」
 という堀さんの、どこかぶっきらぼうではあるが暖かみのある声音に、めまいがすーっと消えていく。もう一度、岸壁に行ってみたい心をここが引け時と市場を後にする。助手席の飯塚さんを見ると今の今まで見て回った一色に、かなり興奮しているのが見て取れる。こっとこっちも同じだろう。



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