関東でのアカアマダイの価値の変遷

潮上に大きく口を開けて待っている


1980年代のはじめ、神奈川県小田原市早川の五郎丸という船宿が、ボクの(海の)船釣り初体験であった。以後、初心者のとき、相模湾では小田原、茅ヶ崎、平塚などに通っていた。
春のキス(シロギス)、夏のワカシ(ブリ)、秋のマダイ、真冬の小アラ釣りと季節によって釣り物を替えていたが、やがてマダイ釣り一辺倒になる。
当時、マダイ釣りの外道とされたものにサクラダイ、ムシガレイ、アズマハナダイ、トンボ(ヒメ)などに加えてアカアマダイがいた。寒い時季のマダイ釣りの水深は100m以上なので、どうしてもタナが低いとこの常連さん達がエサをくわえてしまう。
平日に小田原早川に釣りに行くと、客はボク一人ということが何度もあって、そんなときは大型船ではなく小型の船、老船頭で沖に出ていた。関東大震災の経験者で、沖から小田原の市内から煙が上がっているのを見たというジイサンがやけに嫌っていたのがアカアマダイである。
アマダイ(アカアマダイ)は関東での呼び名で、漢字にすると「甘鯛」である可能性が強い。昔、アカアマダイは関東では鮮魚では食べない魚だったようだ。主に「くずし」にしていた。「くずし」とはすり身にして「よせる(固める)」料理で、蒸し蒲鉾などが最たるものだ。すり身にして蒲鉾など練り製品に加えると甘味が出るので「甘鯛」である。
実際に小田原では上等の蒲鉾用の魚を専門に釣る漁師がいて、ジイサンもそのひとりだった。年末が近づいての獲物はギス(今でも小田原の高級蒲鉾に使われている)だが、アカアマダイも釣っていたようだ。
そんな蒲鉾材料ばかり釣る客に表だって不満は言わないが、明らかに不愉快そうに見ていたのが昨日のように思い出される。
ちなみ小田原の話し言葉はきついので要約を。ジイサン曰く。
アカアマダイは海底に穴を掘って、半身を出して、口を潮上に向けている。エサが目の前に来るとどうしてもくわえてしまうので、タナを上げろ、リールを巻き上げる仕草をするのである。
ちなみに茅ヶ崎でも平塚でもアカアマダイばかり釣り上げる客は嫌われた。

急激に価値観を変えた、魚は他にはないのかも


ちなみに大阪『うおいち』という大阪市の荷主(大卸)で、会議をしたときの雑談で飛び出してきたのも、昔の築地(現豊洲)でのグジ(アカアマダイ)の扱いのひどさと安さである。当時、アカアマダイは関西止まりと言われていた。
これがじょじょに変化し始めたのが1990年くらいではないかと思っている。2000年になった途端に築地場内で1尾入りの荷を見ているし、2000年はじめにはキロあたり3000円で買ったこともある。今現在、豊洲で上物は5000円前後だと思う。
たった40年でこれほど評価が変わった魚もめずらしいのではないか、と考えている。


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