北海道羅臼、めんめの湯煮

湯煮はポシェでうま味を閉じ込める


フレンチではポシェ、ブランシール(霜降りにする)、エチュベ(蒸し煮)と、液体による食材の、火の通し方にははっきりとした区別がある。また同じポシェ、ブランシールでも細々とした指示が加わる。
「湯煮」はフレンチではポシェ(液体で火を通す)にあたるのではないか? ポシェの場合、食材を冷たい液体から入れて煮る、温度を高めてから煮るなど素材や料理によって決まり事があるが、火を完全に通す料理法であることには違いはない。
通すまでの温度管理で味が変わる。まるで物理の法則のように素材ごとにやり方、温度管理が異なる。
その点、日本料理にははっきりした温度管理の決まりはないと思っている。その微妙な違いは、いわゆる職人技とか、秘伝などというもので語られてしまっている。これがフレンチと和の大きな違いだろう。
「湯煮」は明らかにポシェなのに、過去に料理店で食べたものの、どことなく生な火の通し方に違和感を覚えたものだ。
今回、野家で食べた湯煮は「めんめ(キチジ)」に完全に火が通っているものの、ふんわりとまるでババロアのような舌触りで、しかも「めんめ」自体のエキス(うま味と脂)が満ちている。
余談になるが、「湯煮」と同じ調理法の郷土料理は日本各地にあるはずである。三陸の「湯だき」、山形県庄内の「湯あげ」などだ。面白いことに、湯煮とは逆の考え方に北陸・越前の「塩いり」、「浜いり」、沖縄の「まーす煮」がある
作り方は羅臼町特産の羅臼昆布と塩だけだろう。酒の気配はないようである。ある程度温めた湯の中に頭部を除いた丸々1尾を入れて煮立たせないように時間をかけて火を通す。
食材は、例えば豚骨スープ鶏の水炊きのように高温で煮ると、素材からうま味成分も脂も液体に出尽くしてしまう。極力煮立たせないで火を通すと魚のうま味は身自体に閉じ込められて、しかも熱で筋肉がほどよく膨らむのである。
野家のものは脂の豊かなキチジの脂も、そのうま味も、すべて閉じ込めたものだ。
生醤油やポン酢で食べるものだけど、意外に調味料なしがいちばんボク好みだった。
今回は天然の羅臼昆布を持ち帰ってきているので、我が家でも、と思っているが、同じレベルを作るといくらかかるものやら。
野圭太さんおよびご家族の方たちに大大感謝!


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