202109/01掲載

沖鱠

地域地域で名前が変化する

いさぎのたたき

「沖鱠(おきなます)」という言語は非常に古く、全国的に使われていた言語だと思われる。「鱠」は魚貝類だけではなく陸上の動物なども細かく切ってたたいて食べること。「沖」は漁の合間という意味もあり、手早くということだろう。
漁のときに沖合いで取れた魚を手早く下ろし、皮を引く。板の上にのせて細かくたたいたもの。好みで香辛野菜(しょうが、ねぎ、青じそ、みょうが)や調味料(みそ、醤油、酢、二杯酢)などを加える。また沖でとれた魚を料理すること自体をさすともいい、また沖の魚を土産に家族に持ち帰ること自体もいうとある。
今現在、「たたき」と呼ぶ地域の方が多い。
神奈川県小田原の「たたきなます」はマアジなどを細かくたたいてねぎなどを和える。
三重県鳥羽市、尾鷲の「たたき」は、マアジ、「いさぎ」を三枚に下ろして皮を引き、腹骨・血合い骨などを取らないでかなり細かくたたく。しょうがや大葉を加え、みそで調味することもある。鳥羽市ではみそと調理しても醤油で食べる。尾鷲市では酢醤油で食べることが多い。
三陸などではマルタ、ウミタナゴなどを細かくたたき、みそで調味するので「みそたたき」。
千葉県、徳島県の「なめろう」は鱠をみそで調味したもののことだ。たぶん、この地域でも「沖なます(たたき)」があり、みそを入れたものを特に「なめろう」としていたのだと思う。千葉県の「さんが焼き」は沖で作った「なめろう」を浜で待つ漁の手伝いをする人や家族のために持ち帰り、焼いて食べたのが起源かも知れない。
千葉県の「水なます」は鱠を冷たいみそ汁に入れたもので、鱠はだしの役割もする。
歴史的にはもっと集めていかなければいけない。
正岡子規の俳句に「はね鯛をとっておさえて沖鱠」、「涼しさや酢にもよごれぬ沖鱠」などがある。
夏の季語だが、実際には沖でとった魚がすぐにだめになる時季に作られたのではないかと考える。
写真/三重県尾鷲の、いさぎのたたき

このコラムに関係する種

カツオのサムネイル写真
カツオStriped tuna, Skipjack tuna, Oceanic bonito海水魚。日本近海。本州以南にいる。日本海には昔は少なかったが2023年時には増えつつある。朝鮮半島南岸、済州島。世界・・・・
詳細ページへ
ヒラソウダのサムネイル写真
ヒラソウダFrigate tuna 扁花鰹海水魚。沿岸の表層を回遊。北海道〜九州南岸の日本海・東シナ海沿岸、北海道〜九州南岸の太平洋沿岸、屋久島、琉球列島、小笠・・・・
詳細ページへ
マアジのサムネイル写真
マアジJapanese horse-mackerel, Japanese jack mackerel海水魚。大陸棚を含む沖合〜沿岸の中・下層。北海道全沿岸〜九州南岸の日本海・東シナ海・太平洋沿岸、瀬戸内海、屋久島、種子・・・・
詳細ページへ
マダイのサムネイル写真
マダイRed sea-bream海水魚。水深30メートル前後から200mの岩礁域、砂礫底、砂底。稚魚、幼魚はより浅場にいる。北海道全沿岸〜九州南岸の日・・・・
詳細ページへ
ムロアジのサムネイル写真
ムロアジAmberstripe scad 海水魚。沿岸や諸島周辺。北海道の太平洋沿岸、津軽海峡〜九州南岸の太平洋沿岸、八丈島、秋田県〜[島根県浜田]〜九州南岸の・・・・
詳細ページへ
イサキのサムネイル写真
イサキChicken grunt 三線磯鱸、三線雞魚、黃雞仔、雞仔魚、番仔加誌、黃公仔魚、黃雞魚、三爪仔、雞魚(澎湖諸島)、青筆海水魚。浅い岩礁域。新潟県〜九州南岸の日本海・東シナ海沿岸[長崎県橘湾にはいない、もしくはほとんどいない]、瀬戸内海、・・・・
詳細ページへ

関連記事 ▽




呼び名検索

方言を含む全ての名(標準和名,方言,呼び名,外国名,学名)から水産物を検索します。

閉じる