甘草と「こはだ」で春も盛りの天ぷら

ちょっと伸びすぎの甘草に、端境期のこはだ、でも春は春


八王子綜合卸売センター、八百角に甘草が来ていた。産地はわからないが手を伸ばしかけて、暫し躊躇する。
市場から土手を越えて浅川に行けば、ノカンゾウ(野甘草 ワスレグサ科)だらけなのだ。ただ土手を越えていくのはいいとしても、浅川は犬だらけなのだ。特に朝夕など、ボクにとっては恐怖の世界といっても過言ではない。ううう、ワンワンなのだ。
しかも、やわなボクは犬の●●●っこを思い浮かべて、土手の甘草は食べる気になれない。
天ぷらにして和え物にしてと色々考えて、八王子綜合卸売協同組合、舵丸水産にもどって天種を探す。
小柱もなく、シバエビもない。あるのは「こはだ(コノシロの若い個体)」だけだ。必要最小限の2尾買って驚いた。ビックリするくらい高かったのだ。「なくてはならない魚」の水揚げが少ないとグイーーンと値を上げるのが、市場原理というものなのだ。水洗いしてもらって持ち帰る。
「こはだの天ぷら」は江戸時代中期、江戸の町にはあったとされる天ぷら屋台にもあったのだと思う。細田安兵衛(現榮太樓總本鋪)の著書には三越呉服店の夕方の献立だったとある。
(たぶん)締まり屋である三越呉服店のことだから「こはだ」はしごく安くて、しかも滋味豊かで、日常的にも手に入れやすかったのだと思う。
江戸時代から明治にかけて、日本橋の上流にある一石橋あたりでもシラウオがとれていたくらいだから、三越呉服店の眼の前を流れる日本橋川にもたくさんいたはずなのだ。

天ぷらの夕べは、本物ビールをやる


夕刻。
最近、料理はいかに手を抜くか、が課題なので天ぷらなどちょちょいのちょいっと天ぷら粉で揚げてしまう。
「こはだ」は三枚に下ろし、鰭をていねいに取る。
腹骨を取り、皮側から格子状に切れ目を入れる。
天ぷら粉にまぶし、ざざっと溶いた天ぷら粉の衣に潜らせて、高温でさっと短時間で揚げる。
甘草も同じだ。
天ぷらには無個性な味の魚は向かない。
どこかしらクセのある味というか、揚げても独特の風味のあるものがいい。
「こはだ」だけではなく大きくなったコノシロも天種になる。
揚げたてを口に入れると、ニシン科の魚特有の豊かなうま味と、皮の香り、皮直下の脂の層から来る口溶け感が、口の中で瞬時に広がる。
天ぷらのおいしさは、最初の瞬間から口の中全体に広がり、ほどよく口中で留まり、ほどほどのところで消えてなくなるところだ。
今回、甘草はあまりにも素直すぎる味だった。
「こはだ」の合いの手では印象に残らない。
これで黒丸に星の本物ビールで、ほろ酔いの春らしい穏やかな宵、といいたいところだが、外は本降りの雨。


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