神奈川県三浦半島長井のイボダイはちょっとデブだけどうまし

真横から見ると非常に丸い

イボダイ

イボダイ(エボダイ)の前をただ通り過ぎるなんて無理かもしれぬ。いつも買おうか、買うまいか迷いに迷う。仲卸の店舗を見てもそこだけが輝いているように見える。
ボウゼ(イボダイ)を食べすぎるほど食べる徳島県人だからかも知れないが、水産生物を調べているボクではなく、一個人としてのボクがイボダイに惚れ込んでいるのだから致し方ない。
漢字で「疣鯛」は頭部にある黒い部分を疣に見立て、そこから粘液を出していると考えて(実際は体表から)、鯛型で左右に平たい魚という意味である。色はシルバーで、取れたばかりは本当に銀色に輝いているが、時間がたつと輝きが褪せる。ちなみにイボダイは相模湾周辺や東京での呼び名だ。関西ではウボゼ、ボーゼ、シズと呼ばれている。
スズキ目の多くの魚は進化の末に棘を持ち、丈夫な体を持つに至る。要するにこれ以上堅固な体は作れない、といった水準に達しているのである。なのにスズキ目でもイボダイの仲間は、まるでコンニャクのような体をしている。だいたい棘を持たない。武器を持たず、丸腰なのに、なよなよしているのはなぜだろう? 進化という意味ではスズキやマダイと同等なのにどうして君は武器も鎧も捨てたのか?
なんて話はさておいて、八王子総合卸売協同組合、舵丸水産におかれていた、神奈川県横須賀市、長井のイボダイは、体長こそさほどではないが、太って身が厚い。体長16cm前後なのに150gを少しオーバーしている。
旬のわかりにくい魚で、古くは夏の魚などといったが、徳島では秋祭に姿ずしを作る。相模湾では寒くなってくると脂の乗った個体に出合うことが多い気がする。かといって春にまずいかというと、そうでもなく、初夏にもおいしい個体に出合える。
要すに当たり外れの少ない魚と言った方がいいだろう。

振った塩を酢でささっと洗うだけ

酢洗い

今回はこれで酢洗いを作る。酢で締めるのではなく、表面に酢の風味づけするといったものだ。
水洗いして、三枚に下ろす。
腹骨・血合い骨を取る。
振り塩をして30分ほど置き、酢の中で洗って、引き上げる。
酢はきらないで30分ほど置き、完全に拭き取って刺身状に切る。

締めたわけではないので透明感がある

イボダイの酢じめ

今回のものは水氷で鮮度は決して悪くはないが、刺身よりも、酢と塩で締めた方がうまい魚なのである。
さて、2尾分作って2日間、深夜の5勺酒につまむ。
いたって平凡な料理だが、初日と翌日では味が変わるのが酢の力故だろう。
拭き取っても酢はじょじょに身全体に馴染んでくるのだ。
生だとどうしても魚の臭味がある、のだけれど酢を使うとそれもない。
しかも今回のイボダイは脂が乗っているためか、口当たりが甘く柔らかいのである。
このようなものを佳肴というのだけど、1合やれるようになりたいものだ。



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